それにもかかわらず、東電や政府の対応は鈍い。同原発は2021年に社員によるIDカードの使いまわしによる中央制御室への不正入室や外部からの侵入検知装置を壊れたまま放置するなど、テロ対策の不備が相次いで発覚。これを重く見た原子力規制委員会は同4月、原発再稼働に必要となる核燃料の移動や原子炉への装塡を禁じる行政処分の是正措置命令を出した。
その規制委員会も、次期委員長候補の山中伸介規制委員が3月4日の参議院議院運営委員会で「武力攻撃を想定した規制要求はしていない」と証言。政府は「絶対に安全」と言い切って批判を受けた福島第一原発事故に懲りたのか、「武力攻撃は手段、規模、パターンが異なるので、一概に答えられない」(安倍首相=当時)と回答を避けている。
原子炉自体は厚さ20cmの鋼鉄製で、炉を収容する原子炉建屋の強度も高い。通常兵器ならばミサイル1発で破壊されることはなさそうだ。ただ、集中攻撃があれば破壊されるリスクはあるし、中央制御室の防御力は原子炉ほど高くない。テロや重大事故などで中央制御室が利用できなくなった場合に原子炉をコントロールする「特定重大事故等対処施設(特重)」を備えているのは、東日本大震災後に再稼働した6原発中、半分の3原発に過ぎない。
特重が未完成のまま再稼働した関西電力美浜(福井県美浜町)、同大飯(福井県おおい町)、九州電力玄海(佐賀県玄海町)の3原発は、いずれも日本海に面しており、北朝鮮が空や海からの軍事作戦を展開しやすい場所に立地している。
北朝鮮が原発へのテロや軍事攻撃を想定している明確な証拠はない。だが、今回のロシア軍によるザポロジエ原発攻撃で、「その手があったか!」と気づいたのは間違いないだろう。しかも、自国の対岸に原発テロ・攻撃の「世界最大の標的」があり、それらの防御は手薄のままと分かっている。ロシア軍によるウクライナ原発攻撃で、日本の新たな「地政学的リスク」が浮き彫りになったと言えそうだ。
文:M&A Online編集部