セブン&アイ・ホールディングス傘下の百貨店「そごう・西武」で、米投資ファンドへの売却に反発するそごう・西武労働組合が8月31日にストライキを実施すると経営側に通告した。労組がストを盾にM&Aを阻止する構図だが、実はこれが初めてではない。20年ほど前、プロ野球界で球団合併に端を発した労使の対立がストに発展する大騒動が勃発した。
2004年9月にさかのぼる。プロ野球パ・リーグのオリックスと近鉄の合併問題がこじれにこじれ、労組の日本プロ野球選手会と経営側の日本野球機構(NPB)の協議が決裂した。
合併凍結の要求などが受け入れられなかった選手会はスト実施を決定。9月半ばの土日の2日間で12試合が中止となった。選手会のストによる試合中止は日本のプロ野球史で後にも先にもこの時だけだ。当時の選手会長はヤクルトの古田敦也選手。
オリックスと近鉄の合併が明らかになったのは同年6月。近鉄の球団経営は不振にあえいでおり、同じ関西チームのオリックスによる事実上の救済合併だった。さらには、これを発端にダイエーとロッテの合併話が浮上。10球団による1リーグ制を目指す球界再編がまことしやかに論議される事態となった。
選手会は繰り返しオリックス・近鉄の合併凍結を求めてきたが、両球団は8月末に合併に正式調印。選手会が東京地裁に申し立てた合併差し止めの仮処分も却下された。そこでスト決行という実力行使に出たのだ。
選手会とNPBは最終的に、セ・パ両リーグ12球団を維持、近鉄に代わる新規参入球団の受け入れなどで合意にこぎつけ、第2波のストを回避した。ライブドアと争った末、近鉄の後釜としてパ・リーグに加わったのは楽天だった。
そごう・西武の売却は当初予定していた今年2月から2度延長されている。旗艦店の西武池袋本店(東京都豊島区)などに家電量販店「ヨドバシカメラ」の出店が計画されており、雇用維持や百貨店事業への影響を懸念する労組との溝が埋まっていない。
親会社のセブン&アイとしては9月1日にも株式譲渡を完了させたい意向だが、そこに立ちはだかる形となっているのがストだ。交渉が決裂すれば、8月31日に西武池袋本店でストを実施するとしている。
かつてのオリックス・近鉄の合併問題と今回のそごう・西武の売却問題はいずれも一見すると、ストによって会社が決めたM&Aを阻止する構図。ストは労働者に与えられた権利であることは言を待たないが、合併や売却が労働者の団体交渉の対象事項にあたるかといえば、そうとはいえない。
合併や売却はあくまで経営権に属する事項であることから、労組との交渉の余地を残しながらも、経営側が既定方針を撤回することは考えにくい。果たして、そごう・西武の売却問題は合意可能な着地点をどう見いだすのか。
文:M&A Online
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