買収防衛策の導入が話題に…その背景は

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最近また買収防衛策の導入が話題になっています。一時は買収防衛策の廃止が続いていましたが、敵対的買収が増えたことが背景にありますか?

【回答】

はい、敵対的買収が増加し、それへの対応に迫られていることが背景にありますが、敵対的買収者の出現に伴い、これまで実務上一般的とは言えなかった特定標的型・有事導入型の買収防衛策が普及してきたことも、新規導入の大きな要因となっています。

【解説】

しばらくの間、買収防衛策については、新規に導入する会社がごく少数であるのに対して、廃止する会社が相次いでいました[1]。これは、機関投資家、特に外国機関投資家からの理解が得られず、会社提案による買収防衛策継続の議案を可決することができないと判断した会社が議案の上程を断念したことが最大の原因と思われます。

しかし、最近では、これまで一般的に導入されていたいわゆる事前警告型買収防衛策ではなく、有事導入型又は特定標的型と呼ばれる買収防衛策を導入する会社が現れて来ています。これは、事前警告型買収防衛策が、具体的な敵対的買収者が現れる前のいわば平時に導入するものであるのに対して、公開買付けの開始予告をしているなどすでに現れている特定の敵対的買収者に対抗するために導入されるものです。

有事導入型買収防衛策を導入した事例としては、東芝機械(現・芝浦機械)、日本アジアグループ、富士興産、東京ソワール、東京機械製作所、そしてSBIホールディングスらによる公開買付け開始が最近話題となった新生銀行があげられます[2]

従来、経済産業省と法務省の2005年5月27日付「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(買収防衛指針)が、株主、投資家及び買収者の予見可能性を高めるために、導入に際して買収防衛策の具体的な内容、効果を具体的に開示するべきとしていることを受けて(「事前開示の原則」)、具体的な敵対的買収者がまだ現れていない段階、いわば「平時」に防衛策を導入しておくことが、その合理性を高めるとされていると考えられ、そのために事前警告型買収防衛策が実務上の「常識」とされてきました。

しかし、アクティビストによる発行体企業経営陣の意思に反する買増しを含め、敵対的買収が近年急激に増加している状況の中で、発行体企業が事前警告型買収防衛策を導入していない場合であっても、特定の敵対的買収者に買収防衛策の導入、対抗措置の発動をもって対応、対抗する必要性が高い事案が現れてきました。

また、特定標的型・有事導入型買収防衛策の嚆矢となった東芝機械の事例において、東芝機械の代理人が、大要、ブルドックソース最高裁事件決定等からすれば適切に設計されている限り平時導入でなくとも法的に許容されないわけではないという見解を公表したこと[3]が、特定標的型・有事導入型の買収防衛策の導入が相次いでいる一つの契機となっているのではないかと思われます。

もっとも、いくつかの事例では買収防衛策に基づく対抗措置発動は敵対的買収者により対抗措置である差別的行使条件付新株予約権の無償割当ての差止請求が求められ、実際に対抗措置が差し止められているものがあります。そのため、発行体企業の経営陣が企図した効果が常に得られるわけでは当然なく、買収防衛策の設計、導入及び発動手続(特に、株主総会において対抗措置の発動について株主の意思を確認するかどうか)について慎重な検討が必要となることは言うまでもありません。

アクティビストファンドは日本株に注目していると言われていますし、また、伝統的な大企業であっても過度にそのレピュテーションを毀損することを懸念せず、自ら敵対的買収を行うことが決して珍しくない時代となってきました。その中で、敵対的買収は今後もますます増加することが予想され、ターゲットとなった発行体企業はそれへの対応に迫られることになります。

買収防衛策は発行体企業にとって最も重要な対抗策の一つである一方で、行使の方法次第では敵対的買収者に不当な損害を与えるばかりか一般株主の売却の機会を不当に奪うものとなります。

敵対的買収が増えているにも関わらず、買収防衛策については2005年~2008年頃以降、パブリックな議論が進んでいない状況に長くありましたので、今後の司法判断や政府によるガイドライン等を通じたさらなるルールの明確化が望まれます。

[1] データの詳細は茂木美樹・谷野耕司「敵対的買収防衛策の導入状況ともの言う株主の動向─2020年6月総会を踏まえて─」旬刊商事法務2246号27頁参照。

[2] なお、2021年は日邦産業がフリージア・マクロスに対して買収防衛策に基づく対抗措置を発動したことが話題となりましたが、同社の買収防衛策は2019年にはじめて導入され、以降も継続されている事前警告型買収防衛策です。

[3] 太田洋ほか「東芝機械の『特定標的型・株主判断型』買収防衛策について〔下〕─いわゆる有事導入型買収防衛策の法的論点の検討─」旬刊商事法務2241号38頁。なお、東芝機械の事例では対抗措置の発動に対して買収者は差止請求を行っておらず、司法審査は行われていません。

文:柴田堅太郎(柴田・鈴木・中田法律事務所 弁護士)

柴田 堅太郎 (しばた・けんたろう)

所属弁護士会
第一東京弁護士会・2001年登録(司法修習54期)
ニューヨーク州弁護士・2007年登録

取扱分野
M&A、組織再編、ジョイントベンチャー、ベンチャーファイナンス、コーポレートガバナンス、 敵対的買収防衛、株主総会指導、企業の支配権獲得紛争などのコーポレート案件、コンプライアンス、労務問題、企業法務全般

柴田・鈴木・中田法律事務所 HP
http://www.ssn-law.jp/


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