8月10日ロート製薬<4527>が「WIRED CAFE」を運営するカフェ・カンパニー(東京都渋谷区)と資本業務提携をしました。ロート製薬はカフェ・カンパニーの株式を取得し、持分法適用会社としました。カフェ・カンパニー代表取締役社長の楠本修二郎氏はロート製薬の食分野のアドバイザリーに就任。ロート製薬は食品事業に弾みをつけます。
この記事では以下の情報が得られます。
・カフェ・カンパニーの変遷
・ロート製薬がグループ化した狙い
ロート製薬は「ロートグループ総合経営ビジョン2030」にて、注力事業を明確にしていました。その中で「機能性食品」を挙げ、食品事業を次なる事業の柱に育てるとしていました。その取り組みはすでに始まっており、グランフロント大阪で直営カフェ「旬穀旬菜」を運営しています。
このカフェは薬膳と栄養学をベースとしたレシピの開発に取り組んでおり、直営農場から食材を仕入れるなど、実験的な位置づけが高いものでした。カフェ・カンパニーをグループ傘下に取り込み、楠本氏を食分野のアドバイザリーとして招聘することで、外食部門の拡大が期待できます。
カフェ・カンパニーは商業施設やサービスエリア、ホテルなどに100店舗以上を企画・運営してきました。主力ブランドは「WIRED CAFE」ですが、お茶をメインとした「伊右衛門」 など個性的なブランドを展開しています。創業は2001年6月。会社を立ち上げた楠本修二郎氏は、早稲田大学を卒業後にリクルートコスモスに入社し、社長室、広報室などに勤務していました。1993年に大前研一事務所に入社、平成維新の会の事務局長に就任しました。
「WIRED CAFE」は楠本氏が原宿の「キャットストリート」の遊歩道を開発した際、街の一角にカフェを作ったことが1号店のきっかけとなりました。街づくりを行う中で誕生した通り、カフェ・カンパニーは環境の中に飲食店が溶け込むというコンセプトが色濃く残っています。この会社が多様なブランドを抱え、出店場所や形態に合わせて毛色を変えるのはその文化が残っているためです。それは経営戦略に織り込まれているとも言えます。
裏を返すと、同一ブランドによる多店舗化やFC化などの効率的な店舗運営は不得意です。利益を追求して突き進んできたというよりは、時代に合わせて形を変え、他社との共同歩調をとってきました。
それが明確な形をとったのは、2019年11月のGYRO HOLDINGS(東京都新宿区)の立ち上げです。この会社はカフェ・カンパニーとsubLime(東京都新宿区)の純粋持株会社として誕生しました。subLimeは「ひもの屋」などを運営する居酒屋主体の会社。2019年5月期の純利益は1億1,100万円でした。2005年に吉祥寺の屋台からスタートし、90ブランドを展開するなど急拡大を遂げました。GYRO HOLDINGSはグループ全体で売上高300億円規模となりました。コメダホールディングス<3543>と肩を並べる規模です。
しかし、その翌年に新型コロナウイルス感染拡大、緊急事態宣言がやってきます。特に影響の大きかったのが居酒屋を主体とするsubLimeでした。subLimeは急速に脱居酒屋化を推進し、ハンバーガーの「BEXBURGER」、高級食パン専門店「花みつ」などをオープンしました。
外食産業を取り巻く環境が激変したことを目の当たりにして、カフェ・カンパニーは新たな一手を打ちます。食のDXを推進するグッドイートカンパニー(東京都渋谷区)を立ち上げ、NTTドコモ(東京都千代田区)と資本提携契約を締結したのです。ドコモがグッドイートカンパニーの株式51%を取得しました。
グッドイートカンパニーは飲食店のEC化を推進する会社。2021年1月にECサイト「GOOD EAT CLUB」を立ち上げ、厳選した料理や食材、調味料などの販売をスタートしていました。ドコモは提携によってdポイントやd払いの利用促進を図ろうとしました。
そして今回、カフェ・カンパニーはロート製薬のグループ傘下に入りました。カフェ・カンパニーは巨大資本のもと、コロナ禍でも安定的なかじ取りができる可能性が高まりました。楠本氏はロート製薬の次なる成長期待が高い食品事業のアドバイザリーに就任したことで、グループ内で発言権を持つことも期待できます。
カフェ・カンパニーは、時代や形態に合わせて形を変える店舗の在り方そのものを体現してきたかのような会社です。インバウンドで盛り上がり、オリンピック特需が見込めた2019年に居酒屋企業へと近づき、新型コロナウイルス感染拡大でDXが推進されると、がらりと方向性を変えてドコモから出資を受けました。そして人々の健康意識が高まると、薬膳をベースとしたカフェを運営するロート製薬のグループに入ったのです。
文:麦とホップ@ビールを飲む理由