ゴーディが思いついた仕組みとは、プロデュースや編曲、ダンスなど各工程を分業化することで新たなスターを誕生させる手法だった。フレームだけだった鉄の塊がピカピカの新車として工場を出ていくように、スターを生み出すことができると考えたのだ。
しかし、当時の音楽業界はプロデューサーやミュージシャンの職人的な勘と技術で動いていた世界。ゴーディは「その構想を語ると『人間を車扱いするのか?バカなことを言うな』と、みんなに笑われた」と振り返る。
ゴーディは、ダンスやエチケットも含めて徹底した管理体制を敷き、全米No.1ヒットを連発していく。「クオリティ・コントロール」と呼ばれた音楽業界では極めて異例の品質管理会議は、ソングライターやプロデューサーたちの競争心をあおり、ブランドに磨きをかけていく。
モータウンは黒人差別や男女不平等が当たり前だった時代だったにもかかわらず、黒人と白人が対等に議論をし、取締役には女性もいるなど有能な人材が活躍できる環境が整っていた。それでも人種差別や暴動、作家の離脱など多くの困難に見舞われたが、人種や性別に分け隔てのない社風同様、モータウンの音楽には分断した社会をひとつにする力があった。
やがて反戦などの社会的メッセージを含んだ革新的な楽曲も登場。黒人市民権運動のシンボルだったキング牧師とも親交を深めたレーベルには、後にアパルトヘイト撤廃を実現したネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領やオバマ元米大統領も敬意を表すことになる。
『メイキング・オブ・モータウン』は、映画ビジネスに参入すべくロサンゼルスに本社を移すまでの歴史や名曲誕生秘話を、創設者のゴーディが親友にして戦友のスモーキー・ロビンソンと旧交を温めながら説き明かしていくドキュメンタリーだ。
関係者や著名人の回想や証言も交えた貴重なエピソードの数々。これは引退を表明したゴーディが初めて語る創業一代記であり、20世紀に最も影響力を持った独立レーベルの「正史」である。
監督のベンジャミン・ターナー、ゲイブ・ターナー兄弟は「彼らが学んだ教えとは、キャリアを構築し、彼ら自身が起業家になること。自前のレーベルを立ち上げ、彼ら自身のベンチャー事業を始めること。黒人と白人の人種間の緊張が高まっている現代に、この物語を送り出すことに心が奮い立つ思いだ」とコメントしている。
『摩天楼はバラ色に』は、単身ニューヨークでの就職を決意した主人公が強者ひしめき合うビジネス界を上りつめ、アメリカン・ドリームを手にするまでを描く痛快コメディ。