トップ > ライフ > エンタメ・映画 >IPOの流れが理解できる映画『マネー・スキャンダル 破滅への欲望』

IPOの流れが理解できる映画『マネー・スキャンダル 破滅への欲望』

※この記事は公開から1年以上経っています。
alt

経済や金融の話題が苦手で難しい本は敬遠しがちでも、映画やテレビドラマなら気軽に楽しめるという人も多いはず。今回もエンターテインメントとしても楽しめる、おすすめの1本を紹介する。

映画『マネー・スキャンダル 破滅への欲望』は、ウォール街を舞台に、新規公開株の公開までに繰り広げられる情報戦を描く金融サスペンス。立身出世を目指す女たちが持つ「金」に対する飽くなき欲望と、愛情をも金に換える男たちの狡猾さが止めどなく展開。徐々に追い詰められる主人公・ナオミがあらわにする緊張感、目まぐるしく展開が変化する物語のスピード感に、心地よく浸れる100分だ。

『マネー・スキャンダル 破滅への欲望』のあらすじ

以下、ネタバレを含みます。

ウォール街の投資銀行での出世を目指すナオミ(アンナ・ガン)が目をつけたのは、個人情報セキュリティ技術を売りにする新興企業・キャシェイ社の新規公開株だ。過去の失敗でかぶった汚名をそそぐために成功を目指すナオミは、キャシェイのCEO・エドへ積極的な提案を行うが、出世欲の強い部下のエリン(サラ・ミーガン・トーマス)は、ナオミに隠れてエドに近づき、新規上場(IPO)成功の手柄を引き寄せることを企む。

ナオミは、恋人である営業部門のマイケル(ジェームズ・ピュアフォイ)にキャシェイ社のIPOを手がけていることを明かす。しかしマイケルには裏の顔があり、ライバル社のタイタナイトと手を組み、株価操作で不正な利益を上げようとしていた。

マイケルが行うであろう不正取引を取り締まるため、連邦検事のサマンサ(アリシア・ライナー)は旧友のナオミに近づきマイケルの情報を探るが、反対にナオミの反感を買いケンカ別れ。その後もサマンサはマイケルを追い詰めようと情報を集めるが、後手に回り続ける。

IPOの準備が進む中、エドは上場前に社員数人の解雇を決定。その中にはキャシェイ社のセキュリティ技術に疑問を持つマリンが含まれていた。エリンはマリンの連絡先をマイケルに渡し、その引き換えに社内での出世に口をきくことを暗に約束させる。そして上場前日、マリンの証言を得たマイケルは、IT系ブロガーの友人経由で「キャシェイ社のセキュリティに問題がある」という記事を公開させる。

そして翌日。新規公開されたキャシェイ社株の初値は公募価格を大きく下回り、終値はさらに下落。ナオミのIPOは失敗に終わってしまう。その裏でタイタナイトは大量のキャシェイ株を購入する。後日、セキュリティ問題の噂を火消しすることで株価をつり上げ、大きな利益を生む算段を得ていた。

ナオミはキャシェイ社のIPO失敗により出世が消えたことを知り、投資銀行を退職。マイケルは巨額の利益を得て、タイタナイトへ引き抜かれていった。

マイケルに情報を売ったエリンは、銀行を去ったマイケルが残した口利きで出世。マイケルを追い詰められなかったサマンサは民間企業への転職を決め、検事の職を辞した。

最後にサマンサは面接官との会話の中で、転職の理由をこう語る。「目的は金。やっと女性たちが堂々と野望を語れる時代になった」。

IPOの流れを理解しやすい一本

上場前の公募価格と、上場後の株価との売買差額で利益を出すIPO株。日本国内でも初心者向けとして紹介されることがあるが、本作はIPOの入門書として適度な難易度の作品となっている。

見込みのある企業へのアプローチ、投資家へのプレゼン、上場前のリストラクチャリングなど、門外漢でもIPOの流れをひと通り知る事が出来る。専門用語が使われている部分もあるが、金融系のドラマや映画に興味がある視聴者なら、苦も無く理解できるだろう。

アメリカで進む女性の社会進出

女性の社会進出への動きが形になってきた2016年の作品だけあり、登場する女性がはっきりと意思表示をしている。作品の冒頭で行われた会合「CITY WOMAN」にパネラーとして参加したナオミは、人生の原動力を「私はお金が好き」と表現。そして「女性が堂々と野心を語れる時代になった」と、時代の動きを歓迎する発言。作品の最後には、転職で高額の報酬を得るサマンサも同じ台詞を口にし、女性の社会進出を印象づけた。

また一方で、低年俸のまま2年間ナオミの助手を続けるエリンは、自らの待遇に悩み「なぜ女性は未だに不利なのか」という記事に目を止める。妊娠が発覚したことで出世の道が絶たれるのではと悩むエリンの姿は、未だに女性の社会進出に関する問題が解決していないことを象徴している。

命運を分けたアンガーマネジメント

劇中において、ナオミは旧友であるサマンサ、恋人であるマイケル、エリンやその他の男性を含む部下たちに、怒りのままに理不尽ともいえる発言をぶつけている。感情のままに怒りを振りかざしたことが、エリンやマイケルの暗躍を見逃した要因になっただけでなく、サマンサやエリンとの関係を不利に運んでしまったことにも繋がる。

人生の様々な場面で語られる「ピンチの時こそ冷静であれ」という言葉に、どんな意味が含まれているのかを考えさせられるシーンである。

<作品データ>
原題:Equity / 邦題:マネー・スキャンダル 破滅への欲望
2016年・アメリカ(1時間40分)

NEXT STORY

アクセスランキング

【総合】よく読まれている記事ベスト5