三方よしの心得を描いた作品『近江商人、走る!』三野龍一監督インタビュー

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©️2022 KCI LLP

映画でも費用バランスについて考えることが必要

──これまでの2作品は監督ご自身が編集もされていましたが、今回は川島章正さんが入られました。川島さんはこれまでに『おくりびと』『愛を乞うひと』などで日本アカデミー賞最優秀編集賞を4度受賞したレジェンド的存在ですが、いかがでしたか。

川島さんには自分が編集したものをチェックしながら整えていただきました。自分で編集していると客観的であろうとしても、どうしても主観的になってしまう。長年、映画の編集をしてこられたプロの目で確認していただくことで最後まで客観性が保てる。

こだわっていた部分をばつっと切られるのはショックではありましたが、お客さんにとってベストを導き出していただいたので、お願いして本当によかったと思っています。自分だけで抱え込まず、人に任せることも大事だということも学びました。次に編集するときには今回学んだ客観性を大切にしたいと思います。

──時代劇ということで、国宝の彦根城や国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている五個荘近江商人屋敷、旧石橋家住宅がロケーションとして使われています。撮影で苦労されたことはありましたか。

ロケーションとしてはどちらでもみなさんから親切にしていただきました。場所や人にはとても恵まれて、楽しく撮影ができたと感謝しています。ただ、「もう少し引いて撮りたいけれど、電線が入ってしまうからダメだ」など、映ってはいけない現代のものを映さないようにしながら、自分が撮りたい画にしなくてはならない時代劇ならではの難しさはありました。電線も後から消せばいいのですが、お金が掛かってしまうのです。

──企画の段階だけでなく、現場に入ってからも費用について考えながら撮っているのでしょうか。

費用のことも常に頭の片隅に置きながら撮っています。何を優先して、何を削るか。電線を消すところにお金を掛けなければ、その分、違うところに使えますからね。要はバランスです。

企画の段階だけでなく、撮影に入ってからも考えています。映画監督は建築の現場監督と同じ。もちろん結果として無駄になってしまうこともありますが、演出と同じくらい費用バランスについて考えることが必要かもしれません。

──M&A Onlineの読者に向けて、この作品の見どころをお聞かせください。

金融のプロの方ではない人にも興味を持ってもらえるような先物取引の話を作りました。みなさんがご覧になると物足りなさを感じるかもしれませんが、お子さんやお孫さんが金融の仕組みに興味を持つ入り口として楽しんでいただけるかもしれません。お一人でご覧になるのではなく、ご家族で足をお運びいただき、みなさんで楽しんでいただけたら幸いです。

取材・文:堀木三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

<プロフィール> 三野⿓⼀(みの・りゅういち)監督

1988年8月18日生まれ。香川県出身。京都芸術大学[(旧)京都造形芸術大学]映画学科を卒業後、助監督として映画・テレビドラマの現場に参加して経験を積む。その後実弟である三野和比古を映画制作の世界へと誘い、映画制作チーム「MINO Bros.」を結成。初の長編監督作品『老人ファーム』は「カナザワ映画祭 2018」にノミネートされ、観客賞を受賞し、2019年4月より渋谷・ユーロスペースほか、全国公開を果たす。最新作『鬼が笑う』(22)が国内外で高い評価を受ける。

三野⿓⼀(みの・りゅういち)監督
三野⿓⼀(みの・りゅういち)監督 撮影:堀木美紀 ©M&A Online

<STORY>

ある近江商人との出会いから、大津の米問屋大善屋で丁稚奉公することとなった銀次。

それから5年…商才を発揮する銀次は、店の仕事だけではなく、職人の互助組合作りや茶屋の看板娘お仙のアイドル化計画などを手掛け、町の人々を助ける。そんな彼の元には同じ店の楓、眼鏡職人の有益や大工の佐助など仲間が集まるようになった。そんな中、悪辣な奉行の罠によって、大善屋が千両もの借金を背負う。先輩の丁稚蔵之介の父も関わるこの悪企みから店を守るため、銀次は大津と15里=60km離れた堂島の米の価格差を利用した裁定取引を思いつく。電話もネットもない時代、飛脚でも半日掛かる距離を越え、情報を迅速に入手するため、銀次たちが仕掛けた壮大な作戦とは?

<作品情報>

タイトル:『近江商人、走る!』
出演:上村 侑 森永悠希 真飛 聖 黒木ひかり 前野朋哉 田野優花 村田秀亮(とろサーモン) 鳥居功太郎 たむらけんじ 大橋彰(アキラ100%) 高梨瑞樹 徳江かな 落合亜美 コウメ太夫 矢柴俊博 堀部圭亮 渡辺裕之(特別出演) 藤岡弘、(特別出演)/筧 利夫
監督:三野龍一 脚本:望月 辰 製作:新谷ゆっちー タケモトナオヒロ
撮影:川口諒太郎 照明:西山竜弘 美術:佐々木健一 録音:古川裕志 編集:川島章正 音楽:RIO
衣裳:真柴紀子 ヘアメイク:塚原ひろの VFX:鹿角 剛 助監督:鹿川裕史
制作担当:三浦義信 ラインプロデューサー:奥田順一 宣伝プロデューサー:鷲谷 一
主題歌:「non standard」 AMAEBI 製作プロダクション:KCI 配給:ラビットハウス
劇場公開日:2022年12月30日
映画公式サイト: https://oumishounin.com/ Twitter:@OumishouninFilm
© 2022 KCI LLP

『近江商人、走る!』ポスタービジュアル

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