新たな時代への幕開けを感じさせる最新作『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』

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群像劇の魅力はそのままに、希望ある未来を感じさせる映画『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』

20世紀初頭のイングランド郊外の架空の村ダウントンにたたずむ大邸宅を舞台に、そこで暮らすグランサム伯爵クローリー家と使用人らの群像劇を描いた人気テレビドラマシリーズ「ダウントン・アビー」。英国最大の民間放送局ITVが2010年9月に放送を始め、以来、世界200以上の国と地域で放送され人気を博している。英国では2015年12月25日にシーズン6をもって終了。2019年(日本公開は2020年1月)に映画版『ダウントン・アビー』を公開され、続編の『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』が2022年9月30日に公開されることとなった。

キャストにはマギー・スミスらレギュラーメンバーに加えて、ナタリー・バイ、ヒュー・ダンシーらが新たに参加。シリーズの生みの親ジュリアン・フェローズが脚本を手がけ、サイモン・カーティスが監督を務めた。

<あらすじ>

1928年、英国北東部の村ダウントン。広大な領地を治めるグランサム伯爵ロバート(ヒュー・ボネヴィル)らは喜びの日を迎えていた。亡き三女シビルの夫トムが、クローリー家の親戚筋にあたるモード・バグショーの娘と結婚したのだ。華やかな宴とは裏腹に、屋敷は傷みが目立ち、ロバートの長女メアリー(ミシェル・ドッカリー)が莫大な修繕費の工面に悩んでいたところへ、映画会社から新作を屋敷で撮影したいというオファーが舞い込んだ。謝礼は高額だ。父の反対を押し切ってメアリーは撮影を許可し、使用人たちは胸をときめかせる。

一方、ロバートは母バイオレット(マギー・スミス)が、フランス人のモンミライユ侯爵から南仏にある別荘を贈られたという知らせに驚く。侯爵の寛大すぎる申し出に疑問を持ち、妻コーラ、次女イーディス夫妻、トム夫妻、さらには引退したはずの老執事カーソンまでが加わり、一行はリヴィエラへと向かう。果たして海辺の別荘に隠された秘密は一族の存続を揺るがすことになるのか―

映画『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』
特別映像:TVドラマ全6シーズン約3,086分を10分でおさらい!

映画『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』
特別映像:劇場版1作目を4分でおさらい!

相続問題をめぐる上流社会の人間関係が底流に

「ダウントン・アビー」テレビドラマシリーズはタイタニック号沈没事故から始まり、第一次世界大戦、スペインかぜの流行、アイルランド独立戦争など、歴史的出来事を盛り込み、それらがグランサム伯爵一家や使用人たちに与える影響を群像劇のように描いてきた。その底流に渦巻いているのが相続問題をめぐる上流社会の人間関係であり、映画版もその路線を踏襲している。

映画2作目の本作はグランサム伯爵の亡き三女シビルの夫トムがモード・バグショーの娘ルーシーと結婚する場面から始まる。前作『ダウントン・アビー』は英国王夫妻がダウントン・アビーを訪れた顛末をメインに複数のストーリーが絡み合い、バイオレットの従姉妹で子どもがいないとされていたモードの相続に関するいざこざも描かれていた。その着地点がトムとルーシーの結婚なのである。

ダウントン・アビー初の海外エピソードで新風を吹き込む

本作では2つのストーリーが並行して進行する。まず、先代モンミライユ侯爵が所有していた南仏の別荘がバイオレットに譲られていたことである。先代モンミライユ侯爵は妻と息子がいたにもかかわらず、なぜなのか。先代を引き継いだ現在のモンミライユ侯爵から別荘に招かれたロバートは妻や娘夫婦たちを連れ、ことの真相を明らかにするためにリヴィエラに向かう。

同シリーズが海外を舞台にしたのは初めて。地中海を見下ろす壮麗な別荘は、降り注ぐ陽の光と海の青さ、草木の緑に満たされ、ダウントン・アビーが織りなす世界観に新たな風を吹き込んだ。女性陣の淡い色合いで涼しげな衣装は、ダウントン・アビーにいるときの衣装とだいぶ趣が異なり、本作の見どころの一つと言えるだろう。

別荘にはグランサム伯爵たるロバート夫妻、イーディス夫妻、トム夫妻と3組の夫婦が滞在するが、それぞれの夫婦が日常生活を離れていたからこそ互いの思いを吐露し、絆を深めることになった。ジュリアン・フェローズが細やかに物語を紡げるのは、ドラマシリーズに企画段階から脚本家として関わり、個々のキャラクターの本質を理解しているからこそ。老執事カーソンが帽子店でモードと出くわし、通訳をしてもらうシーンがあるが、カーソンを演じるジミー・カーターとモードを演じるイメルダ・スタウントンは実生活上の夫婦である。そんな2人の共演シーンを挟み込むあたりに遊び心を感じた。

肝心の別荘移譲の理由だが、ロバートたちは別荘で見つけたあるものをきっかけに1つの結論に至る。それが真実か否か。そこは帰国後に持ち越される。

伝統を受け継ぎつつ、新たな変化を受け入れていく

もう1つのストーリーが屋敷内でのハリウッドのサイレント映画撮影だ。撮影のオファーを受けた当初、ロバートは断ったのだが、バイオレットとメアリーが阿吽の呼吸でロバートの説得方法を理解し合い、メアリーが屋敷の修繕費が必要であることをロバートに示して説得したのだ。

撮影期間中は南仏の別荘に行くロバートに代わってメアリーが屋敷を取り仕切るが、ジュリアン・フェローズは映画がサイレントからトーキーへの移行期だったことを物語に反映させ、さまざまなトラブルをストーリーに織り込んだ。

メアリーは困り果てた映画監督を見事にサポートし、映画を完成に導く。その過程で、使用人たちの中には、新たな職を見つける者、愛を成就させる者などが現れ、時代の流れを感じさせる。

ダウントン・アビーの未来について思い悩んでいたメアリーは侍女のアンナや夫のヘンリー、バイオレットの思いを聞き、「そのまま維持するのではなく、変化を受け入れていけばいい」という彼女なりの結論に至る。

複雑に絡みあう人間模様と心の機微を丁寧に描く本シリーズの魅力はそのままに、タイトルにある「新たなる時代へ」を強く感じる瞬間である。

文:堀木三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

<作品データ>
『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』
監督:サイモン・カーティス
脚本:ジュリアン・フェローズ
出演:ヒュー・ボネヴィル、ローラ・カーマイケル、ジム・カーター、ブレンダン・コイル、ミシェル・ドッカリー、ケヴィン・ドイル、ジョアン・フロガット、マシュー・グード、ハリー・ハッデン=パトン、デヴィッド・ヘイグ、ジェラルディン・ジェームズ、ロブ・ジェームズ=コリアー、サイモン・ジョーンズ、アレン・リーチ、フィリス・ローガン、エリザベス・マクガヴァン、ソフィー・マックシェラ、タペンス・ミドルトン、スティーヴン・キャンベル・ムーア、レスリー・ニコル、ケイト・フィリップス、マギー・スミス、イメルダ・スタウントン、ペネロープ・ウィルトン、ヒュー・ダンシー、ローラ・ハドック、ナタリー・バイ、ドミニク・ウェスト
配給:東宝東和
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公式サイト:https://downton-abbey-movie.jp/
2022年9月30日(金)より公開

堀木 三紀 (ほりき・みき)

映画ライター/日本映画ペンクラブ会員

映画の楽しみ方はひとそれぞれ。ハートフルな作品で疲れた心を癒したい人がいれば、勧善懲悪モノでスカッと爽やかな気持ちになりたい人もいる。その人にあった作品を届けたい。日々、試写室に通い、ジャンルを問わず2~3本鑑賞している。(2015年は417本、2016年は429本、2017年は504本、2018年は542本の映画作品を鑑賞)


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