ミニスカートを考案『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』

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女性の「欲しい」を形にした稀代のデザイナー

英国ロンドン出身のファッション・デザイナーで、古いルールや既成概念に縛られないデザインで世界的なブームを巻き起こしたマリー・クワントのドキュメンタリー映画『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』が11月26日から公開される。

「自由に、自分らしく」を信条とするマリーの挑戦はファッションに留まらず、生活のあらゆる商品・サービスに広がっていき、やがて日本市場への進出を果たす。本作は1950年代半ばに端を発したデザイナーとしての業績と、時代を切り開いた起業家としての歩みを資料映像と関係者へのインタビューでたどり、常に新たな価値を追求してやまないマリー・クワントを突き動かすものに迫った。

©Courtesy Terence Pepper Collection

<あらすじ>

第二次世界大戦後の英国・ロンドン。戦争の爪痕と階級差別が残る街で、若者たちは自由を求めていた。フランスのオートクチュール発の優雅で女らしいファッションに窮屈さを感じていたマリー・クワントは1955年に、20歳の若さでロンドン初のブティック『BAZAAR』をチェルシーのキングス・ロードにオープンする。

©Courtesy Terence Pepper Collection

自分が着たい服をクリエイトした斬新なファッションは女性たちを虜にし、開店直後からマリーがデザインした服は奪い合いになった。若い女性の“欲しい”に敏感なマリーを支えたのは、夫のアレキサンダーと友人のアーチー。ブランドアイコンのデイジーはファッションから下着、メイク、インテリアと生活のあらゆるシーンに広がり続け、3人はファッションビジネスの新機軸を打ち出していく。

マリー・クワントが考案した「ミニスカート」

とにかくエネルギッシュな女性である。ロンドンのキングス・ロードに出店したとき、マリー・クワントは若干二十歳だった。カレッジで知り合い、後に夫となるアレキサンダーと、弁護士で実務家のアーチーの2人が資金を出し合い、デザイナーを夢見ていたマリーの希望で洋服を売る店にしたという。卸から仕入れる服のほかに、マリーがデザインする服は飛ぶように売れた。

オートクチュール全盛の向こうを張ってマリーがデザインするのは、色や柄、そして素材(生地)が斬新で、若い女性向けの“動きやすい服”だった。彼女が考案した「ミニスカート」は60年代に全世界でブームを巻き起こし、女性解放の象徴のように語られた。

1970年代初頭の日本でも流行した「ホットパンツ」を考案したのも彼女だ。ファッションビジネスにおいて「若さ」や「新しさ」を打ち出すとともに、既製服王国アメリカのノウハウを得て、全ての人が着ることのできる大量生産可能なスタイルを確立した。

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ブランドコスメを立ち上げ

1950年代半ばまでは一握りの人しか享受できなかったファッションの楽しみを普通の人々に開放し、ファッションの民主化を推し進めたマリーの功績は大きい。ファッション分野だけではない。「服に合うメイク(コスメ)」がないことに気付いたマリーは、化粧品業界という新しい分野に飛び込んだ。デザイナーが自らのファッション感覚で化粧品を創るというのは、これが初めての試みだった。

1966年に発表したマリーの化粧品はまたたく間に世界中に広がっていった。30代半ばで子どもを授かってからは、家で暮らす時間が増えたことも手伝って、インテリアやキッチンなどの生の中にある商品のデザインを積極的に手掛けるようになり、ライセンス事業分野の発展に繋がっていく。

「洋服はありたい自分を表現する手段」と語るマリーの軌跡は、時を超えてモノづくりの基本を改めて教えてくれる。

超人的な仕事ぶりのマリーに寄り添う夫アレキサンダー

マリーと夫のアレキサンダーは文字通り、世界を股にかけて飛び回った。日々新たな挑戦を続け、成功を収めて有名になるにつれ、マリーへの取材の申し込みが殺到する。そんな時、間に入るのが夫の役目。インタビュー取材では質問に対し、まずアレキサンダーが答え、その間に頭を整理してマリーが答えるといった具合だ。仕事が増えすぎてマリーがパンク寸前になると、強制的に仕事をやめさせて一人旅に行かせたりする。

©Courtesy Terence Pepper Collection

アレキサンダーの存在がマリーの創作活動と挑戦を可能にしていたことが、いくつかのエピソードから読み取れる。夫婦の絆も、本作の見どころの一つだろう。

日本進出への経緯も

後半では日本市場への進出を契機に、日本の女性向けの商品開発に意欲を示すマリーが描かれる。「マリークヮント」ブランドにおいて日本が極めて重要な位置を占めるに至った経緯を含め、実に興味深いパートである。

もう一つ、興味を引かれることで言えば、本作には1960年代に英国ロックシーンを彩ったデイヴデイヴィス(ザ・キンクス)やピート・タウンゼント(ザ・フー)など著名なミュージシャンが証言で登場する。新しい文化が勃興した60年代の世相を感じさせるインタビューで、音楽ファンにはたまらない場面だろう。

ファッションモデルのケイト・モスやデザイナーのヴィヴィアン・ウェストウッドも出演。さまざまな楽しみ方ができるドキュメンタリー映画である。

<参考情報>
映画の公開にあわせて「マリー・クワント展」がBunkamura ザ・ミュージアム(渋谷)で開催される。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)から来日する約100点の衣服を中心に、小物や写真資料、映像などで彼女の業績や功績を紹介する。映画を観てから、彼女の独創的な作品群を眺めるのもいい。今年の年末は映画と展覧会で、マリー・クワントの軌跡に注目だ。
開催内容はこちら
Bunkamura ザ・ミュージアム「マリー・クワント展」

※文中で個人を指す表記は「マリー・クワント」、ブランドを指す表記は「マリークヮント」としています。

文:堀木三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

<作品データ>
『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』
監督:サディ・フロスト
出演:ケイト・モス、ヴィヴィアン・ウェストウッド、デイヴ・デイヴィス(ザ・キンクス)、ピート・タウンゼント(ザ・フー)、ポール・シムノン(ザ・クラッシュ)
2021年/イギリス/英語/90分/ビスタサイズ/原題:QUANT/映倫区分G
協力:マリークヮント コスメチックス
後援:ブリティッシュ・カウンシル
配給:アット エンタテインメント
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11月26日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開

『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』

堀木 三紀 (ほりき・みき)

映画ライター/日本映画ペンクラブ会員

映画の楽しみ方はひとそれぞれ。ハートフルな作品で疲れた心を癒したい人がいれば、勧善懲悪モノでスカッと爽やかな気持ちになりたい人もいる。その人にあった作品を届けたい。日々、試写室に通い、ジャンルを問わず2~3本鑑賞している。(2015年は417本、2016年は429本、2017年は504本、2018年は542本の映画作品を鑑賞)


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