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型破りな教育で貧乏な若者と名門大学を目指す『スーパー30 アーナンド先生の教室』

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©️Reliance Entertainment ©️HRX Films ©️Nadiadwala Grandson Entertainment ©️Phantom Films.

貧乏な若者を集め、型破りな教育で名門大学を目指す

勉学の才に溢れるも極貧にあえぐ若者30人を私塾に集め、型破りな教育で名門大学への合格を成し遂げる。そんな痛快無比な実話を基にしたインド映画『スーパー30 アーナンド先生の教室』が9月23日(金、祝)から全国公開される。自らが舐めた苦渋から世界を変えようとする一人の男の情熱と、劣悪な環境でも夢を諦めない生徒たちの学びの喜びを、インド映画が得意とする歌や踊り、そしてサスペンスタッチを交えて描く。観る者に希望と勇気を与えてくれるエンタテインメント作品だ。

©️Reliance Entertainment ©️HRX Films ©️Nadiadwala Grandson Entertainment ©️Phantom Films.

<あらすじ>

舞台は1990年代のインド。貧しい家庭の生まれながら天才的な数学の才能を持つ学生、アーナンド(リティク・ローシャン)は、数学の難問の解法をケンブリッジ大学に送ったところ、その才能が認められ、イギリス留学のチャンスを得る。だが、貧しい家計から費用が捻出できず、当てにしていた学費援助もすげなく断られ、いつも彼を励ましてくれていた父親も心臓発作で亡くなってしまう。

留学を断念したアーナンドは自転車漕ぎの物売りとなって生計を支えたが、インド工科大学(IIT)進学のための予備校を経営するラッラン(アーディティヤ・シュリーワースタウ)に才能を見いだされ、たちまち校内ナンバーワンの人気講師となり、豊かな暮らしを手に入れる。

そんな中、貧しさゆえに路上で勉強する一人の若者との出会いが、アーナンドの心に火をつけた。予備校を辞めた彼は、才能がありながら貧困で学ぶことができない子供たち30人を選抜し、”無償で”住む場所と食事を与え、IIT進学のための数学と物理を教える私塾、「スーパー30」を開設したのだ。

私財を投げ売ったアーナンドは資金繰りに苦しみ、教育をビジネスとしか考えないラッランから様々な妨害を受けながらも、型破りな教育で生徒たちに自信を持たせていく・・・

©️Reliance Entertainment ©️HRX Films ©️Nadiadwala Grandson Entertainment ©️Phantom Films.

「日常のすべてに疑問を持て!」

痛快無比の映画である。落ちこぼれの高校生が東京大学への入学で人生一発逆転を果たす実話は日本にもあるが、インドを舞台とした本作の主役はカーストから抜けられない極貧の子どもたちである。

アーナンド先生が開校する私塾のチラシを見て10代の少年・少女が大挙して選抜試験に詰めかけ、その中から30人が選ばれた。

彼らがしていた仕事は、下水道の掃除人、セメント工場の日雇い、遊園地の観覧車の見張り番、大道芸人…。働きながら自力で勉強を続ける彼らの中には、アーナンドの私塾に辿り着くための交通費さえ工面できない若者もいて、思い思いの方法で私塾を目指す。

興味深いのは、数学者であるアーナンド先生の型破りな教育だ。教室の中でも、外出するときも、「日常のすべてに疑問を持て」と生徒に迫る。「時速120マイルで走る電車の車両を全部切り離す。その時の電車の速度は?」「雷はなぜ鳴る?」「クリケットの球を飛ばすときの力は?」「上空マイナス35度でなぜ雲は凍らない?」などと矢継ぎ早に質問を飛ばす。

また、生徒たちが英語を話せる上流階級の同世代にコンプレックスを持っていることが分かると、街の真ん中で英語劇に挑戦させる。自ら考え、工夫することを覚えた生徒たちは、高額で1冊しか買えない参考書の取り合いをやめ、手作りのプロジェクターで共有し、勉強し始めた。

©️Reliance Entertainment ©️HRX Films ©️Nadiadwala Grandson Entertainment ©️Phantom Films.

20歳未満が総人口の4割近くを占めるインドでは、競争を勝ち抜いて高収入の職業に就くための道筋として名門大学への入学が重視される。より良い教育を自らの子どもに与えたいと願う親が教育・受験ビジネスの成長を後押しするのは、日本の状況と同じであろう。予備校の名物教師として出世したアーナンド先生が、貧困ゆえに英国のケンブリッジ大学への進学を諦めた経験から無料の私塾を開き、やがて「教育マフィア」ともいうべき勢力から命を狙われるサスペンスタッチのくだりは、映画後半の見どころである。

心に残る言葉の数々が観る者を励ます

心に残る印象的な言葉が多いのも、本作の魅力である。例えば、「王になるのは王の子供じゃない。王になるのは能力のある者だ」。ケンブリッジ大学の学術誌に論文を郵送しようとするアーナンドに対し、郵便局に居合わせた大人たちが“勉強するだけ無駄だ”と言わんばかりに嘲笑したとき、アーナンドの父が発した言葉である。郵便配達夫だったアーナンドの父は「まだ昔のカレンダーを見ているのか」「教えれば知識は2倍になり、教えなければゼロになる」といった言葉で無理解な大人たちを諭しながら、アーナンドを勇気づけた。

そのアーナンドが自らの私塾で子どもたちを豊かな言葉で勇気づけ、奮い立たせていく。これらの言葉の数々は、本作を観る者を励ましてくれるだろう。

©️Reliance Entertainment ©️HRX Films ©️Nadiadwala Grandson Entertainment ©️Phantom Films.

親から子へと続く貧困はインドも日本も同じ

インドではカーストに基づく差別は憲法で禁止されているが、農村部ではカーストの意識が根強く残り、下位カーストが世襲の職業以外に就くのは難しい。しかし都市部ではカーストの意識が薄まり、新興産業のIT業界などではカーストの枠を乗り越え、下位カーストの出身でも才覚と努力で社会的な成功と高給を手にするチャンスがあるという。

インド社会では今なお残るカーストの影響で、貧困が親から子どもへと受け継がれやすい。本作が描いた、抜け出ることが困難な身分制度の重みに圧倒されつつ、翻って日本社会はどうか。日本では子どもの7人に1人が貧困家庭とされ、生育や教育において極めて不利な状況にある。親から子へと続く貧困の連鎖においては、日本社会も同じではないか。そのことに改めて気づかせてくれる映画でもある。

※本作は実在のアーマンド・クマール氏が2003年に始めた教育プログラム「SUPER 30」を下敷きにしており、映画の冒頭で「本作の多くは実話だがフィクションも含まれている」との断り書きが映し出される。

文:堀木三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

『スーパー30 アーナンド先生の教室』
監督:ヴィカース・バハル
脚本:サンジーヴ・ダッタ
撮影:アナイ・ゴースワーミー
音楽:アジャイ-アトゥール
配給:SPACEBOX
原題:SUPER30/2019年/インド/ヒンディー語/シネスコ/154分
©️Reliance Entertainment ©️HRX Films ©️Nadiadwala Grandson Entertainment ©️Phantom Films.
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/super30/
9月23日(金)全国順次ロードショー

スーパー30 ポスター
©️Reliance Entertainment ©️HRX Films ©️Nadiadwala Grandson Entertainment ©️Phantom Films.

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