韓国の大統領選を描く『キングメーカー 大統領を作った男』

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韓国政治の実話を題材に2人の盟友の人生の交錯を描く『キングメーカー 大統領を作った男』

映画『キングメーカー 大統領を作った男』は日本でも名の知れた韓国の政治家、金大中(キム・デジュン)をモデルとするキム・ウンボムが国会議員に初当選してから大統領選を戦うまでの選挙の裏側を赤裸々に描いた作品である。

金大中は1954年に国会議員に初めて立候補するも落選。1959年、1960年と立て続けに落選するが、1961年の補欠選挙で初当選する。そのときに選挙参謀として金大中を当選に導いたのが厳昌録(オム・チャンノク)だった。

主人公キム・ウンボムを演じたのは、『茲山魚譜 チャサンオボ』に続き、本作で2年連続、百想芸術大賞の最優秀男性演技賞を受賞したソル・ギョング。ウンボムの「影」の選挙参謀となり力を尽くすソ・チャンデに扮するのはイ・ソンギュン。『パラサイト 半地下の家族』で豪邸の主人を演じていたことが記憶に新しい。ソル・ギョングが主演を務めた『名もなき野良犬の輪舞』のビョン・ソンヒョンが監督を務めた。

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<STORY>

1961年。韓国東北部の江原道で小さな薬局を営むソ・チャンデ(イ・ソンギュン)は、独裁政権を打倒して世の中を変えたいという思いから、野党の新民党に所属するキム・ウンボム(ソル・ギョング)に肩入れしていた。

チャンデはウンボムの選挙事務所を訪ね、「1票を得るより相手の10票を減らす」戦略を提案する。理想家肌のウンボムにとって賛成できない案だったが、チャンデの豊富なアイデアに助けられ、ウンボムは補欠選挙で初当選。さらに63年の国会議員選挙では地元である木浦で対立候補を破り、新進気鋭の国会議員として注目を集めることになる。

チャンデは表に出ない影の選挙参謀として活躍する。しかし、勝利のためには手段を選ばないチャンデに次第に党内から不満の声が漏れ始め、ウンボムも徐々に理念の違いを感じ葛藤していく。

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<見どころ>

1960年代の韓国社会の勢いを見事に再現した製作陣

本作で描かれた1961年から71年までのおよそ10年は、韓国経済の高度成長が始まった時期である。社会全体が右肩上がりで成長し、混沌の中から新しいものが生まれる。当時の韓国社会の勢いを、画面の至るところから感じることができる。

政治に関しては、政権与党が画策した不正選挙の実態が描かれる。投票を呼び掛けるための饗応接待、戸別訪問によるプレゼントの手渡し(女性は靴、男性はワイシャツ)、意図的に停電を起こして開票所で不正操作など、現代では考えられない不正のオンパレードである。余談だが、登場人物の男性たちが所構わず煙草を吸うのにも、半世紀を超える時の経過を感じてしまう。

選挙戦の描写には、ソンヒョン監督や製作スタッフは強いこだわりをもって臨んだ。例えば撮影チーム。ヴィンテージ・レンズを使用し、時代に合わせて異なるフィルターをかけ、シーンによっては古さを強調するために8ミリフィルムのカメラを導入したという。

セットを作る美術チームは、当時の写真を綿密に調べながら準備を進めた。博物館などの所蔵品から60年代当時の小道具を、しかも使える状態で探すのは限界がある。映画で使用した小道具の8割以上をイチから製作した。本作の生き生きとした画作りは、製作陣の努力と工夫があってこそだと実感できる。

信頼する者に裏切られ、袂を分かつ哀しみが心に迫る

「世の中を変えたい」という共通の思いを持つキム・ウンボムとソ・チャンデ。苦楽を共にしてきた二人の会話が、本作の大きな見どころである。

チャンデの戦略のおかげで野党を代表する政治家に上りつめたウンボムは、選挙に勝つためにはなりふりかまわないチャンデの手法に理念の違いを感じながらも、強引な手法で周囲の反感を買い、孤立しそうになるチャンデをかばう。表舞台に一切出ない選挙参謀の存在に気づいた政権与党が大金を積んで引き抜こうとするが、チャンデはウンボムとの信頼関係を理由に申し出を即座に断ってしまう。

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同じ目的を共有しつつそこに至る理念に隔たりのある2人が、ある事件をきっかけに袂を分かってしまう。互いを繋ぎとめていた信頼の糸がぷつりと切れ、裏切られたと考えるようになってしまった。

本作を観る者は自らの人生に引き付けて考えたくなるし、どちらの考え方や生き方に共感するのかを考えざるを得なくなる。政治家として放つ光りが強くなるほどに、存在を表に出さない影はますます濃くなっていく。深みと奥行きを感じさせるソル・ギョングとイ・ソンギュンの演技に脱帽である。

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関連した話題を一つ。本作で描かれた大統領選挙において、現職の強みを最大限に生かした大統領パク・キスのモデルは朴正煕(パク・チョンヒ)だが、彼はその後、悲しい運命を辿る。それについてはぜひ『KCIA 南山の部長たち』(2021年)をご覧いただきたい。朴正煕大統領が中央情報部部長の金 載圭(キム・ジェギュ)に暗殺された実話を基に映画化された実録サスペンスである。

文:堀木三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

『キングメーカー 大統領を作った男』
監督:ビョン・ソンヒョン
出演:ソル・ギョング、 イ・ソンギュン、ユ・ジェミョン、チョ・ウジン
2021年/韓国/123分/5.1ch/ビスタ/原題:킹메이커/字幕翻訳:小寺由香
配給:ツイン
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公式サイト:https://kingmaker-movie.com/
8月12日(金)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー

キングメーカー 大統領を作った男
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堀木 三紀 (ほりき・みき)

映画ライター/日本映画ペンクラブ会員

映画の楽しみ方はひとそれぞれ。ハートフルな作品で疲れた心を癒したい人がいれば、勧善懲悪モノでスカッと爽やかな気持ちになりたい人もいる。その人にあった作品を届けたい。日々、試写室に通い、ジャンルを問わず2~3本鑑賞している。(2015年は417本、2016年は429本、2017年は504本、2018年は542本の映画作品を鑑賞)


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