日本のM&A市場 「黄金時代」到来か、日本産業推進機構の津坂 純社長に聞く

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日本産業推進機構(NSSK)社長の津坂純さん

国内投資ファンドの日本産業推進機構(NSSK、東京都港区)がここへきて存在感を急速に高めている。今年に入り、調剤薬局「さくら薬局」運営のクラフト(東京都千代田区)、浄水器メーカー大手のタカギ(北九州市)を買収したが、いずれも1000億円規模の大型案件。さらに4月末に経営破綻した元東証1部上場でホテル・不動産業のユニゾホールディングス(東京都港区)のスポンサー支援に名乗りを上げた。

NSSKは2014年に発足し、来年10周年の節目を迎える。津坂純社長に投資戦略や今後の展開、M&A市場の現況などを聞いた。

日本のM&A、黄金時代が来た

-アフターコロナを迎え、日本のM&A市場をどう展望していますか。

現下のM&A市場は世界的に二極化している。その構図も日本対ROW(レストオブワールド、その他の国・地域)。つまり、世界を見回してM&A活動が活発なのは日本だけで言っても差し支えないのではないか。

欧米先進国では昨年来、大幅な金利高が起き、借入コストが急上昇した。銀行破綻もあった。買い手、売り手の双方の活動が急激に低下する状況にあり、M&Aにおけるバリュー(企業価値)は30%以上下がっている。これに対し、日本の場合は横ばいで、鈍化しているわけでもない。日銀の植田和男新総裁は粘り強く金融緩和策を継続することを明言しており、成長を後押しする環境が作られている。実は私自身、日本はM&Aの黄金時代に入っていると思っている。

-黄金時代に入ったとのことですが、その理由は。

まずはマクロの環境。株価上昇に象徴されるように、日本経済が活気を取り戻しつつあることはM&Aに追い風になる。GDP(国民総生産)成長率の伸びも明らかに力強さを増している。

国内のM&Aでは事業承継が圧倒的に多く、取引の半分を占める。中小企業で経営者の高齢化と後継者不足が深刻化する中で、売りニーズがますます膨んでおり、M&Aのエンジンとなっている。

上場企業の課題では今日、株主価値が問われている。その点で、上場している意味があるのかどうか疑わしい企業が10社、20社でなく、100社単位で出てくる。非上場化案件として今後、顕在化することが考えられる。また、上場企業ではノンコア(非中核)事業の売却、アクティビスト(物言う株主)の圧力による子会社・事業売却といった動きが続くとみられる。

一方で、PE(プライベート・エクイティ)ファンド業界が2年以上保有する国内企業は650社以上。いずれはIPO(株式公開)を含めて出口を模索することになる。

現在、M&Aのあらゆるセクターの活動がかつてない水準で盛り上がりをみせている。短期的なものではなく、中長期にわたって持続するメガトレンドの一つだと認識している。

津坂さん

ミドルマーケットの次元が変わる

-NSSKとして今年は大型の投資案件が相次いでいます。

今年に入って総額で2500億円以上の案件を発表した。3月にさくら薬局(運営会社クラフト)に1000億円強、6月に浄水器大手のタカギに1000億円弱を出資し、傘下に収めた。4月末にスポンサー支援の基本合意を発表したユニゾホールディングス(4月末、民事再生法の適用を申請。負債総額1262億円)については最終的にどういう形になるか見えていないが、500億~1000億円規模となる。

かつて国内PEファンドが手がけるミドルマーケットといえば、100億~200億円だった。ところが、ここへきて次元が変わりつつあると実感している。米国のミドルマーケットは一般に2000億円規模とされる。これに徐々にではあるが、日本も近づきつつある。

例えば、大企業のカーブアウト案件。今までは外資系PEファンドの独壇場だったが、国内プレーヤーも数千億規模の案件を扱う時代がやってきたと思っている。

ユニゾ支援、成り行きは?

-ユニゾホールディングスをめぐってはスポンサー選定を再実施することになりましたが、NSSKのスタンスは。

ユニゾはビジネスホテルを国内に14施設、オフィスビルを国内に3棟、米国に6棟を保有する。われわれはユニゾが十分に再生可能で、さらに発展が見込めると考え、管財人、銀行団と話し合いを進めたうえでスポンサー支援にいち早く手を上げた。当社にはホテル事業の再生の経験があり、従業員が誇れるホテルにする確信を持っている。

スポンサー選定のやり直し云々については、自分たちがコントロールできることではないが、ユニゾの再生を最後まで実行していきたい考えに何ら変わりない。8月になれば、形が明確になるはず。成り行きを見守るだけだ。

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