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日本のM&A市場 「黄金時代」到来か、日本産業推進機構の津坂 純社長に聞く

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日本産業推進機構(NSSK)社長の津坂純さん

年間6~8件の投資実行を目指す

-投資実績や出口戦略について教えてください。

投資件数としては年間6~8件を目標としている。2014年の会社設立以降の累計は33件。コロナ禍初年の2020年は2件と意図的に件数を落としたが、2021年5件、2022年7件、2023年はここまで3件(ユニゾを除く)。最近3年でみると、国内PEで案件数、金額のいずれも当社がトップクラスにある。

33件中、事業会社など他社への売却を通じて出口を迎えたのは3件。投資期間は大体5年。なかには3年というのもある。投資先企業の業績向上に伴い、配当として投資家に還元を始めたケースもいくつか出ている。

-現在、検討中の投資案件はどうですか。

20数件の候補案件があるが、うち10件は200億円以上。なかにはヘルスケア関連で1000億円クラスの案件も含まれる。数年前には考えられないことで、マーケットが拡大かつ深化してきた証左といえる。

買収後、しっかり成長資金を投じる

-PEファンドとしてNSSKならでは特色は。

事業承継案件であれば、その会社の力だけでは成長に限界があることから、われわれが様々な施策で支援する。成長資金はもちろん、ビジネスプロセス(サプライチェーン見直しや生産性向上などの仕組み)、人材の3点セットを一括して提供する。

具体的な例でいうと、6月に傘下に収めたタカギの売上高は300億円余りだが、当社は200億円超の設備投資枠を用意した。いきなり、売上高に近い投資を行うのは普通なら考えられない。ファンドが入ると、コスト削減が第一になることが多いからだ。

われわれの約束事は会社を良くすること。即ち、売上高や利益を伸ばし、従業員を増やすことにある。このため、大きな設備投資枠を準備した。北九州の本社工場を建て替え、茨城県つくばには関東工場を新設する。

当社のやり方は大半のファンドとは異なるかもしれない。オーナーは売却後の会社の将来を心配している。オーナーにはNSSKに買ってもらえば、しっかり投資してもらえるんだと思ってもらっている。これは大事なことだ。

-さくら薬局の立て直しはどうですか。

1000億円以上の投資案件ということで注目されている。さくら薬局は約900の調剤薬局を展開し、業界大手の一角を占める。地域におけるヘルスケアの提供役としてどうあるべきか、やるべきことは盛りだくさん。NSSKのもとで、店舗網の増強をはじめ、事業拡張に向けた体制づくりを整えている。高齢化を背景に在宅調剤のニーズも高まっており、しっかり対応していきたい。

-NSSK設立から来年10年の節目を迎えます。

繰り返しになるが、1000億円クラスの案件をミドルマーケットで実行できる時代が訪れるとは正直思っていなかった。その意味で想定以上のことが今起こっている。課題を抱えながらも、失われた20年あるいは30年を経た結果、日本が新たな成長ステージに迎えつつあることと無縁ではない。

当社は設立以来、「日本経済に新しいチカラを」をミッションに掲げている。成長ありきの投資リターンを大事にしてきた。ぶれることなく、潜在力の高い日本の魅力的な企業を対象に、投資と経営の両面からバックアックしていきたい。

津坂さん(NSSKの本社で)

◎津坂 純さん(つさか・じゅん)
1983年にハーバード大学を卒業し、メリルリンチに入社。ハーバード・ビジネススクールでMBA(経営学修士)を取得。米投資ファンドのTPGキャピタルでパートナー、同社日本代表などを歴任。2014年に日本産業推進機構(NSSK)を立ち上げて社長に就任し、現在に至る。

聞き手・文:M&A Online 黒岡博明編集委員 

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