靴販売大手のチヨダ<8185>が14年ぶりにM&Aに踏み切る。同社は現在手がけていない高額紳士靴の領域を埋めるため同分野を主力とするトモエ商事(東京都台東区)を2023年8月に子会社化する。
このM&Aに関し「成長戦略の一環」であるとするとともに「これを契機と捉え今後も事業モデルの拡大を意識した取り組みを推進する」とし、さらなるM&Aを匂わせる。
同社は長い間、業績不振に陥っていたが、2023年2月期に7期ぶりに増収に転じたほか、2024年2月期には5期ぶりに、本業の儲けを表す営業損益が黒字化する見込みだ。
チヨダの歴史を見ると、1986年に500億円だった売上高がわずか3年後の1989年には1000億円に倍増した実績がある。M&Aによって再び急成長を呼び寄せることはできるだろうか。
チヨダは1936年に東京都杉並区の高円寺で「チヨダ靴店」を創業したのが始まり。1962年に多店舗化(チェーン・ストアー)を始め、 店舗数の増加に伴って、東京本部を設置するとともに、関西や九州、北海道に相次いで進出。1974年に店舗数が100店を突破した。
1977年に 「東京靴卸売センター」1号店を開店、1979年に「東京靴流通センター」に改名。この年に店舗数は200店に到達した。
1980年には 日本証券業協会東京地区協会に店頭登録し、1985年に東京証券取引所市場第二部に上場。翌年の1986年には売上高が500億円を超え、3年後の1989年には売上高1000億円、店舗数1000店(1985年に500店を達成)に到達した。
1990年には新たな事業分野である衣料品事業を手がけるマックハウスを設立し、9年後の1999年にマックハウスが日本証券業協会に店頭登録し、さらに5年後の2004年にはマックハウスが、ジャスダック証券取引所に上場した。
M&Aに関しては、有価証券報告書に記載のあるのは、2009年に靴事業強化のためアイウォークの株式を取得し子会社化した1件だけで、そのアイウォークは2017年に靴事業の営業力強化のため吸収合併した。
そして2件目となる「トモエ商事」の子会社化が2023年8月に実現する見通しだ。
トモエ商事は百貨店を中心とした法人向けの紳士靴卸販売を主な事業としている。チヨダは「東京靴流通センター」による小売りが主力であり、卸売りや百貨店での販売は手がけてこなかった。
新型コロナウイルスがインフルエンザなどと同じ5類相当となり、行動制限などが撤廃されるのに伴って、消費の回復やインバウンド(訪日外国人旅行客)の増加などが進んでおり、百貨店での販売も回復が見込まれる。
このタイミングで、トモエ商事の卸売ビジネスやそのノウハウ、販売チャネルなどを取り込むことで、新たなビジネス基盤を構築できると判断した。
そのトモエ商事の過去3年間の業績ははかばかしくない。売り上げは増加しているものの、営業損益はいずれも赤字だ。ただ2021年3月期、2022年3月期に6億円を超える赤字が2期続いたあと直近の2023年3月期決算では9100万円と赤字幅は大幅に減少しており、次期に黒字転換の可能性を予感させる。
トモエ商事は2024年2月期第3四半期からチヨダの連結対象となる。業績に与える影響はさほど大きくはないが、百貨店への卸事業という新たなビジネスに対する相乗効果は決して小さくはなさそうだ。
2009年に子会社化した靴小売チェーンのアイウォークは首都圏と郊外のショッピングセンターでの出店に特徴があり、チヨダの小売り事業を補完できると判断し、傘下に収めた。アイウォーク、トモエ商事に続くM&Aも、この延長線上での実現が見込まれる。
一方で、チヨダは最適な事業構成を目指してEC(電子商取引)事業や法人向け販売事業を強化しており、売上高構成比で20%ほどを占める衣料品分野の子会社は、M&Aを実施した経験もある。このため、こうした分野でもM&Aの可能性はある。どのタイミングでどういう分野のM&Aを実施するのか。次の手に関心が高まる。