スピンオフ前のコシダカHDは買いか

2020年1月27日、東証はコシダカホールディングス<2157>の日本初スピンオフIPOを承認しました。これにより、実施日の2020年3月2日にコシダカHDの株主は、コシダカHDと新規上場するカーブスホールディングス<7085>両社の株主になります。

スピンオフとは

「スピンオフ」は特定の事業部門や子会社を切り離して独立させる事業分離のスキームで、組織再編行為にあたります。

スピンオフされた会社の株式は、基本的に元の会社の株主が保有することになります。 会社法上の仕組みとしては、特定の事業部門をスピンオフする場合は「新設分割」、完全子会社をスピンオフする場合は「現物配当」が活用されます。

「スピンオフIPO」とは、ある企業集団が運営していた一部事業を別会社として切り出し、その切り出した別会社の株式を既存株主に現物配当をしたうえで上場させることを言います。これにより、スピンオフ対象の事業はもともとの運営企業と資本関係のない別個に独立した会社となります。

コシダカHDのスピンオフ
引用元:コシダカホールディングス2019年8月期決算説明資料P.32より

コシダカHDは総合余暇サービス提供企業として、「まねきねこ」ブランドのカラオケ事業や温浴事業、「カーブス」ブランドのスポーツクラブ(「カーブス事業」)などを運営しています。今回のスピンオフでカーブス事業をカーブスHDという新しい会社に切り出して、カーブスHDの株式をコシダカHDの株主に配当することにより、コシダカHDとカーブスHDの相互には資本関係がない(株主が共通しているだけの)二つの会社が存在することになります。

間違いやすい「スピンオフ」と「スピンアウト」の違い

スピンオフとよく似た仕組みで「スピンアウト」というものがあります。スピンアウトは分離元企業の株主が切り出された会社の株式を割り当てられることはなく、切り出した会社の株式が無関係の第三者に売却されます。

本件の例でいうと、コシダカHDがカーブスHDを切り出した後、コシダカHDの株主に株式を現物配当する代わりに、カーブスHDの全株式をまとめてファンドや別の会社に売却するとか、IPOで売り出してすべて売り切るなどのスキームであれば、スピンアウトになります。この場合、コシダカHDの株主は、カラオケ事業とカーブス事業を運営するコシダカHDの株主から、カラオケ事業を運営しカーブス事業の売却対価の現金を受け取ったコシダカHDの株主となります。

スピンオフ時の株価の理論値は

さて、スピンオフの場合、二つのものがひとつの箱にしまわれていたのを、二つの箱にひとつずつしまいかえるだけのことですので、理論的には株価に与える影響は±ゼロです。

例えばA銀行の口座に200万円預金しているXさんが、新しくB銀行に口座を作り、A銀行の口座からB銀行の口座へ100万円振り替えたとします。A銀行では月に何回か手数料無料で振り込みができるサービスがあるので、振込手数料はかかりませんでした。この場合、Xさんは振替の前後で財産が増減したでしょうか?

していませんね。それと同じことです。

よって、例えばスピンオフ前に株価が2,000円だったとして、スピンオフ後のC社とD社の株価の合計は2,000円になるはずなので、理論上はスピンオフが行われたとしても株価に影響はないということになります。

なぜ市場は下げ基調となったのか?

しかし、コシダカHDの株価は、1月27日にスピンオフIPOの承認を得ると下げに転じ、1月27日に1,784円だった株価は2月4日には1,548円まで下げました。その後2月13日には1,603円までの持ち直しがあったものの1,784円にまでは戻らず、その後は新型コロナウイルス等による市場全体の下げの影響もあって下げ基調となり、2月19日終値は1,498円となっています。

〇実際のコシダカHD株価推移(2020年1月27日-2月19日)

日付株価(終値)
1月27日1,784円
2月4日1,548円
2月19日1,498円

なぜ市場はこのような反応をしたのでしょうか?

これは、理論値の説明の際に例示した現金の場合と異なり、事業の場合は「シナジー効果」と「コングロマリットディスカウント」という2つの要因が発生しているからです。

プラス評価の「シナジー効果」とマイナス評価の「コングロマリット・ディスカウント」

「シナジー効果」というのは、1つ1つの事業が単独で存在したときには得られない相乗効果のことを言います。

例えば、利益率は高いがキャッシュコンバージョンサイクルが長く設備投資も多額に必要で資金繰りが厳しいE事業と、利益率は低いがキャッシュコンバージョンサイクルが短く設備投資も不要な資金繰りに余裕があるF事業があったとして、それぞれ別個独立に事業を行っていたとします。その場合、E事業を運営する会社は資金調達コストがかさみ、F事業を運営する会社は余剰資金の運用難に直面することとなります。

これが、1つの会社の中で運営されていれば、E事業の資金需要にF事業の余剰資金を充てることで資金調達コストが下がり余剰資金の有効活用ができることになります。

一方、「コングロマリット・ディスカウント」というのは、1つ1つの事業が別個独立に運営されていれば全体像を把握しやすく、企業価値をより正確に把握できるものが、複数事業が同時に運営されていると企業の全体像の評価が複雑で難しくなり、投資家がわからない分値引きをしてしまう現象のことです。

このように、複数の事業を運営している会社の株価は、シナジー効果によるプラスの影響とコングロマリット・ディスカウントによるマイナスの影響を受けており、両者のトレードオフの結果、調整された株価がつけられていることになります。

今回のスピンオフで起きた現象

さて、スピンオフが行われると、シナジー効果とコングロマリットディスカウントが同時に消滅することになります。

よって、「シナジー効果 > コングロマリットディスカウント」となっているケースでは、全体としてプラスの効果がなくなるため、株価はマイナス方向に動くことになります。(逆に、「シナジー効果 < コングロマリットディスカウント」の場合は、全体としてマイナスの効果がなくなるため、プラス方向に株価が動くことになります。)

今回のコシダカHDのケースでは、市場はマイナス方向に反応していることから、シナジー効果の方が大きかったのにスピンオフによってそれがなくなってしまうことでマイナスの動きを示したと解釈することができるでしょう。

結局、コシダカHDの株価は安いのか?

では、本当にそうなのでしょうか?

コシダカHDのセグメント情報を見て考えてみたいと思います。

セグメント損益だけではなく、セグメント資産も開示される年度決算のセグメント情報の最新版は2019年8月期のものですので、これに基づいてセグメントの売上高利益率、ROA、総資本回転率、投資に係るCF影響額を試算し比較してみました。

セグメント別経営指標
©筆者作成

これを見ると、以下の状況が読み取れます。

・カラオケ事業は、売上高利益率は低い(D)が資本回転率が高い(F)薄利多売モデルで、ROA(E)はカーブス事業より高い
・カーブス事業はその逆で、売上高利益率は高い(D)が資本回転率が低い(F)高単価少販売モデルで、ROA(E)はカラオケ事業より低い
・カラオケ事業は、投資が償却を上回る(I)先行投資フェーズにあり、投資資金需要が強い
・カーブス事業は、償却が投資を上回り(I)投下資金回収フェーズにあり、資金繰りに余裕がある

以上からすると、少なくとも客観的に資金繰りの面で両事業にはある程度確実なシナジー効果が読み取れるので、それがなくなる分、株価が下落するということはある程度の合理的反応と言えそうです。

しかし、コシダカHDの債務償還年数を試算すると、下記の通り「1.9年」とだいぶ余裕があり、現在の金融緩和環境も考慮すれば資金調達コストがそれほど大きな問題になるとは考えにくく、方向性としてマイナスに動くのは仕方ないとして、その値幅が大きすぎるのではないかという疑問も成り立つと思います。

債務償還年数
©筆者作成

2019年10月10日にスピンオフ方針を公表した際のプレスリリースによると、それぞれの事業の環境変化への対応、戦略の柔軟性向上を迅速化することでそれぞれの事業の価値がより高まるという趣旨の理由を掲げていますので、3月2日のスピンオフ後にはそれぞれの会社からより詳細な成長戦略と目標利益が公表されるかもしれません。その内容次第ではシナジー効果の喪失を補って余りあるプラスの効果が出る可能性もあります。

もちろん、新型コロナウイルス問題などのマクロな下押し要因は強いので、そこに留意は必要としても、現状はある程度割安な水準まで調整されている可能性が高いのではないかと個人的には思われます。

文:巽 震二(証券アナリスト/フリーランスマーケットアナリスト)

参考資料
2019年8月期 決算説明資料 - コシダカホールディングス
2019年8月期 決算短信 - コシダカホールディングス
子会社株式の現物配当(株式分配型スピンオフ)及び特定子会社の異動に関するお知らせ - コシダカホールディングス
子会社株式の現物配当(株式分配型スピンオフ)及び特定子会社の異動に関するご説明(Q&A)- コシダカホールディングス
経済産業省|コシダカホールディングスの産業競争力強化法に基づく事業再編計画を認定しました