実はピックアップ創業時から、M&Aによるエグジットも考えていたという。それはなぜか。
「開発やものづくりに集中したかったんです。IPOの場合は、株主総会など公の企業としてものづくり以外のことでやらなければならないことが増えてしまって、ものづくりに集中できない。だから、資金面の心配がない会社に売却するのも一つの手だと宮本とも話していました。アプリのダウンロード数が100万を超えて、投資とM&Aのオファーをいくつか受けるようになり、その中からベストな方法を模索することにしました」(乾氏)
M&Aによる売却先を探す際には、「ものづくりに集中できる環境」と「企業風土」を重視したという。特異な例だが、第三者的な仲介会社を介することなく、知人ベースで買い手を紹介してもらったり、声をかけてもらったりしたとのこと。売却先の候補として、上場企業を中心にDMMも含め5社ほどと交渉の席につくことになった。
投資やM&Aの数あるオファーを比較検討し、選んだ道がDMMグループ入り。DMMはものづくりや新しいことに対して積極的で寛容的なところが良かったというが、一番の決め手は意外なところにあった。
「何だかんだで人柄です。片桐社長とはもともと面識があって、いつもプロダクトづくりを応援してもらっていたので、絶対に悪い事にはならないと思っていました。片桐社長がピクシブからDMMに来たのはまったくの偶然ではありますけど。亀山会長とは初対面で、『POOL』が10代女子のユーザーが多いアプリなだけに、他社の担当者にはコンセプトやプロダクト自体が理解されにくかったんですが、亀山会長は一発で理解してくれたんです」(乾氏)
さらに、DMMの意思決定の早さにも惹かれたという。
「他社と比べて何十倍ものスピードでDMMは物事を進めていくんです。すごい人たちだなと思いましたね。こうしたスピード感もある上に、プロダクトへの理解もある。そんな尊敬できる二人だからこそ、DMMにしようと決めました」(乾氏)
2017年1月には完全子会社化。DMMグループ傘下に入って資金面などのサポートを受けることで、狙い通り、ものづくりに集中できるようになったという。今後の展開について長期的でポジティブな青写真が描けるのもグループ入りのおかげだ。
「これからは片桐社長と亀山会長にビジネスの形で恩返しがしたいですね。DMMは、インターネットサービスでもリアルな世界の事業が強い会社。ピックアップが中心となって、インターネットだけで完結するサービスを生みたいです。また、独立企業でやっていたころは短期的な目線になってしまいがちでしたが、DMMグループに入ることで長期的目線になれたので、チームビルディングをすぐにでもしっかりやっていきたいと思います」(乾氏)
IT業界のスタートアップの多くは、M&AかIPOでのエグジットを意識しながら起業している。そこには、ピックアップのように、会社を経営したいというよりも新たなモノやサービスをつくって世に送り出したいという思いが強くあるようだ。だからこそ、特にスタートアップ企業の買収は、事業やプロダクトへの深い理解なしには成し遂げられないだろう。
取材・文:M&A Online編集部
乾 夏衣(いぬい・かい) |
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2012年に19歳で上京し、会計サービスを開発する株式会社日本税理システムを創業。2014年には、ピックアップ株式会社を宮本拓氏と共同創業し、現在はCTOとしてインフラ運用やチームビルディングを担当。 |
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