だが、翌日には側近の猛反対を受け、ヒトラーは苦悩の末に「レームに自決を促し、従わないようなら処刑せよ」との命令を下す。レームは最後まで反逆を否定して、自決を拒否。ついに処刑された。「長いナイフの夜事件」として知られる粛清劇だ。
正規軍との確執、それに対して盟友のはずの独裁者が味方についてくれない苛立ちから激しい批判をし、自らの墓穴を掘るというパターンがワグネルとナチス突撃隊の共通点だ。裏方の「汚れ仕事」を担う組織のトップだったプリゴジン氏とレームが、政治的な表舞台に立ちたいとの野心を持っていたことも共通している。
M&Aに例えれば、プリゴジン氏とレームはPMI(合併・買収後の統合プロセス)に失敗したと言えよう。プリゴジン氏のワグネルは大企業と合併した新進気鋭のベンチャー、レームの突撃隊は大企業を買収した祖業のベンチャーだ。
ワグネルは大企業のワンマン社長からの強い引きで合併に応じ、経営の主導権を握ろうとして大企業側のメンバーから猛反発を食らった。一方、突撃隊は自らが構成員だったベンチャーが大企業を買収したものの、ベンチャーの創業社長が大企業側についてしまい、結局は排除されてしまった構図だ。
ナチスドイツの突撃隊と同じ轍を踏んだワグネルだが、組織名の由来はドイツのロマン主義作曲家リヒャルト・ワーグナーとの説もある。ワーグナーはヒトラーが最も気に入っていた作曲家だったというから、なんとも皮肉な話だ。
文:糸永正行編集委員
関連記事はこちら
・「救国の英雄」か「ネオナチ」か?ウクライナ・アゾフ連隊の正体
・ロシアが万難を排してまでウクライナを手放さない「本当の理由」