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年金とM&A(1)従業員に支払う債務、買収価格に影響

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日本の重要性基準に注意必要

――かなり複雑な計算が必要なのですね。ところで、年金の専門家はM&Aのどの段階で参加することが多いのでしょうか。

 「M&Aのデューデリジェンスには、ビジネス、財務、法務、税務、人事など多様な専門家が参加する。年金アドバイザーは買い手企業の助言者として最初からか、あるいは、財務や法務よりも少し遅れて入ることもある。そして、適正な年金債務額を財務アドバイザーに連携したり、年金制度の引き継ぎ方を弁護士と共に買収契約書に反映したり、買収前後の労働条件を人事専門家と検討したりする」

――買収しようとしたら、対象企業に思った以上に年金債務があって大変だったというようなケースはあるのでしょうか。

 「日本基準、国際会計基準(IFRS)、米国基準のすべてにおいて、確定給付年金の債務額はバランスシートで開示することになっている。よって、その数値を見れば大体の債務額は把握できる」

 「ただ、いくつか気をつけなくてはいけない重要なことがある。例えば、年金債務を計算する際に使われる前提の妥当性、特に、割引率の妥当性だ。どの会計基準も、将来の支払額を割引計算するときの金利は決算日時点の市場金利に基づくことを求めているが、日本基準だけ、年金債務が10%以上変わらなければ前期と同じ金利を使っていいという例外的なルールである重要性基準を設けている。この基準を採用している企業の場合、市場金利がどんどん下がっている局面では債務の金額が実態より少なく計上されている場合があり、割引率を変更した途端に、年金債務が10%以上変動することになるので注意が必要だ。経営不振の企業ほど、重要性基準を適用して割引率を見直さない傾向があるかもしれない」

年金債務10%の変動で数十億円の影響

 「例えば、2015年度末で上場3,600社の年金債務の合計額は91兆円に上り*、一社平均で250億円程度、よって、年金債務の10%変動は25億円にも匹敵する。つまり、買収額へも数十億円規模の影響を及ぼす可能性があるので注意が必要だ。ただ、直近では、株価の上昇で年金資産が増えている会社が多いため、年金債務の問題は軽減されていると言えるだろう」。

 「もう一つ気をつけなくてはならない代表的な例が、同業などで組織した総合基金に加入している場合だ。いくつかの企業が合同で運営している年金制度に加入している場合、会計処理の難しさなどから、確定給付年金であっても、確定拠出年金のように会計処理をすることが認められている。つまり、確定給付年金も持っているにも関わらず、バランスシート上に年金債務が計上されていないことがある。このような、総合型の確定給付年金に入っている企業を買収する際には、その企業が負っている年金債務をしっかりと計算して、買収価格に反映しなくてはいけなくなるが積立不足が大きい場合も多く注意が必要となる」(次回に続く)

* 日本経済新聞 2016年7月26日朝刊

取材・文:M&A Online編集部

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関根 賢二 (せきね・けんじ)

マーシュ アンド マクレナン カンパニーズ 戦略推進グループ ディレクター

株式会社日本興業銀行、タワーズペリン(現ウィリスタワーズワトソン)、マーサージャパンM&A部門、年金コンサルティング部門を経て現職。年金関連業務における15年以上の経験を持ち、数理計算、制度設計、年金ALM、M&Aにおけるデューデリジェンスや契約交渉など幅広いプロジェクト経験を有する。マーサージャパン入社後は、クロスボーダーM&Aを中心に数々のグローバル・プロジェクトを統括。年金コンサルタントしての米国実務経験も有し、日本のみならず海外年金事情にも詳しい。

著書に「事業再編とバイアウト(中央経済社、共著)」「年金学入門(きんざい、共訳)」がある。

慶応大学、慶応大学院卒(理学修士)、ペンシルバニア大学ウォートン・スクール経営学修士(MBA)修了。日本アクチュアリー会正会員・年金数理人・日本証券アナリスト協会検定会員・米国CFA協会認定証券アナリスト


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