ゼレンスキー大統領はブダノフ局長のインタビューが公開された翌日の21日のテレビインタビューで「ウクライナへの大規模侵攻が始まった2月24日以前の領土を取り戻せば、ウクライナにとっての勝利だ」と和平条件のハードルを引き下げるなど、火消しに躍起になっている。
ただ、ゼレンスキー大統領と米国の思惑通り早期の和平交渉に踏み出せるかどうかは不透明だ。現時点での戦況はロシア軍を押している印象があり、ウクライナ国民にしてみれば「ここまで犠牲を払って中途半端な現状維持はありえない。この機にロシア軍を完全に追い払うべきだ」との世論が高まるのは避けられない。
特に東部戦線で善戦しているアゾフ連隊(大隊)が極右の民族至上主義的なリーダーに率いられていることから、そうした世論を盾にとって戦闘の長期化に走る可能性が高い。そうなると、新たな懸念材料も浮上する。アゾフ連隊は非人道的な行為を米下院や国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)から指摘され、非難も浴びてきた。
ロシア軍に協力的なロシア系ウクライナ人が多いクリミア半島で戦闘が繰り広げられた場合、ウクライナ東部軍の主軸となっている民族至上主義的な部隊によるロシア系民間人の暴行や拉致(らち)、拷問、略奪、性的暴力が発生するだろう。人道主義を掲げる西欧諸国からの支援に頼るウクライナにとっては、致命的なイメージダウンになりかねない。
ニューヨーク・タイムズの社説も「ウクライナ人はロシアの侵略のために戦い、死に、そして家を失い、戦争の終結を決定しなければならない。妥協のための苦しい領土交渉に臨む必要がある」として「難しい決断を下さなくてはいけなくなる」と予測している。「勝っている戦争」を終わらせるのは、負け戦で降伏するよりも難しいのだ。
文:M&A Online編集部
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