仮に配備できたとしても、「敵基地攻撃能力」として有効かどうかも分からない。現在の核ミサイルや核爆弾を投下する爆撃機には、電磁パルス対策がとられているからだ。これはEMP兵器による被害に備えてと言うよりも、複数の核兵器で攻撃する場合に先に爆発した自軍の核兵器から放出されるガンマ線を浴びて無力化する「同士討ち」を避ける狙いが大きい。
つまり、EMP兵器は核ミサイルの防衛には使えないのだ。もちろん通常兵器を搭載したミサイルや爆撃機でも、電磁パルス対策をしていれば効果はない。米国と旧ソビエト連邦が過去にEMP兵器の実験をしたことは知られているが、実際に配備されていないのもそのためだ。
電磁パルスは敵基地をピンポイントに攻撃する戦術兵器ではなく、敵国の通信やエネルギーなどのインフラを広範囲で破壊して都市能力を奪う戦略兵器だ。使用すれば全面戦争になりかねず、運用は極めて難しい。北朝鮮は2017年9月に電磁パルス攻撃が可能な核弾頭を開発したと声明を出した。
しかし、実際に使ってしまえば西側諸国の反撃で体制崩壊が確実となる核兵器で攻撃するとなれば、高高度爆発ではなく敵国に壊滅的な被害をもたらす低空で核爆発を起こす通常運用を選ぶ可能性が高い。北朝鮮が本当にEMP兵器を保有しているにしても、実際に使用することはないだろう。
同じ総裁選に立候補した河野太郎行政改革相は、高市前総務相の電磁波を利用した敵基地先制攻撃構想を「敵基地攻撃論は昭和の概念。いま議論すべきなのは日米同盟でいかに抑止力を高めていくかだ」と切り捨てた。河野大臣には防衛相と外務相を務めた経験もあり、電磁波を利用するEMP兵器の「実効性」と「運用の難しさ」を熟知しているようだ。
文:M&A Online編集部