河野太郎大臣が高市前総務相の「電磁波兵器」を一蹴した理由

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電磁パルス兵器はミサイルなどの先制攻撃を防衛できるのか?(写真はイメージ)

自由民主党総裁選挙に出馬した高市早苗前総務相がテレビ番組で、弾道ミサイルを相手国領域内で無力化する「敵基地攻撃能力」として「使えるツールは電磁波や衛星」と発言した。これに対して「そんなことが本当に可能なのか?」と疑問視する声もあがっている。

現在の日本は先制攻撃せず、パトリオットミサイルなどで敵の攻撃を迎え撃つ(航空自衛隊ホームページより)

電子機器や部品が瞬時に無力化するEMP兵器

高市候補は具体的な兵器について語らなかったため、「敵基地攻撃能力」が何を想定したものかは不明だ。ただ、電磁波を使う兵器は存在する。最も実現性が高いのは、強力な電磁パルス(EMP)を発生させて攻撃兵器の電子機器や部品を故障させるEMP兵器だろう。EMP兵器は通常兵器に比べると人体に対する影響は小さく、人命を奪わないので専守防衛の日本には運用しやすいとの見方もある。

だが、今のところ電磁パルスを敵基地に確実に照射するには、高度数十km以上の高層大気圏での高高度核爆発しか方法はない。高高度では大気がほとんどなく、核爆発のエネルギーの多くが電磁放射線(ガンマ線)として地上に降り注ぐ。電磁パルスの影響範囲は、高度によって爆発直下の地点から100〜1000kmに達する。

電磁パルスが到達すると、金属などの導体に誘導電流が瞬間的に流れ、落雷と同様の電気的なトラブルを引き起こす。電子機器の多くは瞬時に作動しなくなり、大規模な停電も発生する。ロケットや人工衛星技術を持つ日本にとってはEMP兵器を高高度に打ち上げ、精確に爆発させることは難しくない。

だが、殺傷能力はないとはいえ、核兵器を保有・使用することになる。国内はもとより、米国はじめ同盟国からも強い懸念が示されるはずだ。日本が配備するには、極めてハードルが高い兵器といえるだろう。

米ソもさじを投げた「使い勝手の悪さ」

仮に配備できたとしても、「敵基地攻撃能力」として有効かどうかも分からない。現在の核ミサイルや核爆弾を投下する爆撃機には、電磁パルス対策がとられているからだ。これはEMP兵器による被害に備えてと言うよりも、複数の核兵器で攻撃する場合に先に爆発した自軍の核兵器から放出されるガンマ線を浴びて無力化する「同士討ち」を避ける狙いが大きい。

つまり、EMP兵器は核ミサイルの防衛には使えないのだ。もちろん通常兵器を搭載したミサイルや爆撃機でも、電磁パルス対策をしていれば効果はない。米国と旧ソビエト連邦が過去にEMP兵器の実験をしたことは知られているが、実際に配備されていないのもそのためだ。

電磁パルスは敵基地をピンポイントに攻撃する戦術兵器ではなく、敵国の通信やエネルギーなどのインフラを広範囲で破壊して都市能力を奪う戦略兵器だ。使用すれば全面戦争になりかねず、運用は極めて難しい。北朝鮮は2017年9月に電磁パルス攻撃が可能な核弾頭を開発したと声明を出した。

しかし、実際に使ってしまえば西側諸国の反撃で体制崩壊が確実となる核兵器で攻撃するとなれば、高高度爆発ではなく敵国に壊滅的な被害をもたらす低空で核爆発を起こす通常運用を選ぶ可能性が高い。北朝鮮が本当にEMP兵器を保有しているにしても、実際に使用することはないだろう。

同じ総裁選に立候補した河野太郎行政改革相は、高市前総務相の電磁波を利用した敵基地先制攻撃構想を「敵基地攻撃論は昭和の概念。いま議論すべきなのは日米同盟でいかに抑止力を高めていくかだ」と切り捨てた。河野大臣には防衛相と外務相を務めた経験もあり、電磁波を利用するEMP兵器の「実効性」と「運用の難しさ」を熟知しているようだ。

文:M&A Online編集部