トップ > ビジネスと経済 > 政治・経済 >海外メディアが報じる 相次ぐ海外M&Aに賭けるJT(日本たばこ産業)の思惑とは

海外メディアが報じる 相次ぐ海外M&Aに賭けるJT(日本たばこ産業)の思惑とは

※この記事は公開から1年以上経っています。
alt
※画像はイメージです

熾烈なたばこバトル 相次ぐ海外M&Aに賭けるJTの思惑とは

日本たばこ産業株式会社(JT)<2914>が、新興国のM&Aを急速に推し進めている。インドネシアのたばこ会社の買収に続き、8月22日にはフィリピンのたばこ大手、マイティー・コーポレーションの買収を発表した。先進国においては紙巻きたばこ販売の成長を見込みづらい中、手薄だったアジア市場開拓に本腰を入れ、世界規模でのシェア拡大をめざす。 

◆フィリップ・モリス追撃のためフィリピン大手2位を買収

JTは、株式の33.35%を国が保有する財務省所轄の特殊会社で、売上高は世界第4位(中国の国家煙草専売局を除く)だ。1999年には米RJRナビスコの米国外事業(6000億円)、2007年には英ギャラハー(2兆円超)と、2度の巨額買収でその名をとどろかせた。

世界の大手たばこ会社ランキング(2016年)

https://www.statista.com/statistics/259204/leading-10-tobacco-companies-worldwide-based-on-net-sales/

今回の買収はそれに次ぐ規模で、468億フィリピンペソ(約1048億円)をもって合意。フィリピンで第2位大手マイティーの資産を引き継ぎ、同国内約6%にとどまっているシェアの引き上げを狙う。JTが取得するのは、マイティーの流通販売網や製造設備、製品や半製品、原材料などの在庫、商標などの知的財産権。市場シェア約7割と圧倒的な首位を保つ米フィリップ・モリス(PMI)の後を追う。 

◆東南アジアを拠点にめざす、事業基盤強固化

英フィナンシャルタイムズ紙によると、JTがインドネシアとフィリピンにターゲットを定めた理由として、「多くの島々から成り立つこれらの国々での販売網形成のため」であり、「合計3.6億もの人口と、5%以上の経済成長率を有する両国は、マーケットとしてふさわしい」とコメントしている。

JTによる2016年の新興国販売は1379億本と海外販売の3割を占め、販売本数も年々増加傾向にあることから、「JTの海外戦略における眼のつけどころは鋭い」と同紙は賛辞を送る。ただしフィリピンの喫煙者が、より高品質のたばこを求めるようになった場合のリスクも否定できないとする。もっとも、JTグループは自社ブランド「Winston」で都市部および中価格帯に販路を見出し、一方、マイティーも自身のブランド「Mighty」「Marvels」により、市場の50%以上を占めるバリュー価格帯でリーディングポジションを得ていることから、住み分けがなされているとの分析結果もある。

◆買収先 マイティーをめぐる脱税疑惑

JTの買収提案に対しては、同国の競争委員会の承認待ちが続いていたが、8月末に承認が下りたことを、9月8日にフィリピン最大手新聞INQUIRER紙が報じた。これは、同国の公正競争法(共和国法第10667号)が、取引額10億ペソ超のM&Aには、競争委員会への事前通知と承認が必要と規定しているため。

ブルームバーグによれば、同国では外国企業による土地所有を認めていないことから、マイティーが引き続き工場の土地を所有し、現地でのたばこの製造は同社に委託することになるという。

マイティーはフィリピン市場で23%のシェアを占めるが、偽造印紙を使用し巨額の脱税をした容疑で当局から訴追されている。事業売却により捻出した資金の一部を政府への支払いにあてる考えで、これまで複数社が名乗りを挙げていた。

INQUIRER紙によると、フィリピン政府は脱税分の支払いとして、まず25億ペソをマイティーから受け取ると発表。なおドゥテルテ大統領は8月24日の施政方針演説(SONA)で、マイティーによる債務支払いを、戦闘が続くミンダナオ地方マラウイ市やレイテ島地震で被災したオルモックの復興に充てる考えを示している。

◆縮小する国内市場、伸びしろ大きい新興国市場

独占禁止法の制約や先進国での健康志向の高まりから強化されたたばこの規制などが理由で、JTの海外でのたばこの売り上げは減少。国内での紙巻たばこの販売数量も、平成8年のピーク時に比べ、平成27年度は1833億本とほぼ半減している。

(財務省資料より)http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d08_3.pdf

一方、東南アジアのたばこ規制団体が2014年に発行した報告書によると、フィリピンでは、成人人口の約3分の1に相当する約1700万人が喫煙。男性のほぼ半数、女性の9%が喫煙し、東南アジアではインドネシアに次いで2番目に高い喫煙率となっている。アフリカ、中南米と、新興国市場開拓に力を注ぐJT。世界シェア拡大に向け、次なる一手が興味深い。

文:M&A Online編集部

参考資料
https://www.ft.com/content/e0cc418c-8723-11e7-8bb1-5ba57d47eff7
http://business.inquirer.net/236465/global-tobacco-firm-acquires-mighty-corp

NEXT STORY

アクセスランキング

【総合】よく読まれている記事ベスト5