ビズサプリの三木です。
財務省の資料によると、平成27年度末の「国の借金(国及び地方自治体の長期債務残高)」は1,035兆円と推計されるそうです。この多額の借金について、このままでは日本の財政は破綻するという意見と、いやいや大丈夫という意見があり、専門家の間でも全く見解が異なる状態です。
実際にどうなるのかは私には想像もつきませんが、今回は、こうした財政状態に関わる論点を紹介したいと思います。
このままでは日本の財政は破綻するという意見は、概ね以下のようなものです。
現在の日本の財政は収入より支出が多い家計と同じです。この状況が続くと「日本の財政は破たんするのではないか!?」という疑いが広まります。この結果、新規に国債を発行しようとしても誰も引き受けてくれなくなります。
それでも何とか国債を引き受けてもらわないと財政が破綻してしまいます。そのためには国債にリスクマネーを引き付ける高い金利を設定しなければなりません。こうして国の借金は雪だるま式に増え、高い金利によって国内はインフレに悩まされ、ついにその自転車操業も回らなくなって日本は債務不履行に至るかもしれません。
これを防ぐには、「ワニの口」と称されるほど開く収入と支出のバランスを取り戻すことが必須です。すなわち公共投資を削減し、無駄遣いを止め緊縮財政にする必要があります。この立場からすると、「ヘリコプターマネー」などもってのほかです。
一方で日本の財政は破たんなどしないという意見もあります。
日本の財政を語るときに国の借金ばかり注目されますが、政府部門は実は金融資産もたくさん持っています。借金が多くても資産もたくさん持っているのであれば、そこまで心配する必要はありません。
また国の借金といっても、特に団塊世代の貯金に代表されるように、実は日本人が国債を多く引き受けています。つまり借金といっても民間部門と政府部門の貸し借りに過ぎず、日本全体でみればバランスは決して悪くありません。
海外を見れば、例えばアルゼンチンは何回か債務不履行に至っています。しかしながら同国は自国内で国債を引き受けるだけの民間部門の貯蓄がないため外国債を大量に発行しているという状況にありました。これに比べ日本は民間部門が健全であり、国債は国内消化でき、外国債を発行する必要が乏しいため、財政不安によって国債の引き受け手がいなくなることはあまり想定しなくてよいかもしれません。
日本の財政が破たんするかどうか私ごときには予想もつきませんが、財政不安がひどくなった時にはインフレが起きることが多いとされます。
実は太平洋戦争後、日本は1945年の水準からみて1949年に約70倍のハイパーインフレを経験しています。この原因は、太平洋戦争に当たっての多額の戦時国債の発行や、その後の復興費用を賄うための大量の国債の日銀引き受けでした。今の日本はそこそこ経済力があるため多額の国債があってもこうしたインフレにはなっていませんが、もし経済力が落ちればインフレに傾く可能性は無いとは言えません。
実はインフレというのは、借金を抱える国にとっては税金と同じ効果を持ちます。例えば平均年収が500万円で国の借金が1,000兆円あるのと、平均年収が5,000万円で国の借金が10,000兆円なのはほぼ同じと言えます。年収が5,000万円というと羨ましい気もしますが、コンビニのおにぎりが1,000円になっていればあまり意味はありません。つまりインフレで年収や物価が上がった時に国の借金は実質目減りします。1,000兆円の借金があっても年収や物価が10倍になれば単純計算で税収も10倍になりますから、返済はだいぶ楽になります。
その裏で割を食うのは金融資産です。せっせと住宅資金を3,000万円貯めたとしても、インフレで物価が10倍になってしまえば家は買えず、その10分の1の値段の車ぐらいしか買えなくなってしまいます。結果を見ると、インフレによって金融資産に対して資産税が課せられ、それを原資に国の借金が減ったのと同じことになります。
財政が悪化することでインフレが起きても、この「インフレ税」によって借金が目減りすれば、逆に財政は持ち直すかもしれません。世界の歴史ではそういう例もいくつかあります。しかしながら、真面目に働いて得た貯蓄が台無しになっては道徳観もおかしくなりますし、生活の安定は保てないでしょう。貯蓄が失われれば生活不安から治安にも影響が出てきます。これでは財政が立てなおったといっても、国の政策としては失敗です。
インフレ税による財政再建は結果としてそうなることもあるだけであって、それを狙って実行してはならないシナリオでしょう。日本は「失われた20年間」で長いデフレを経験し、インフレという状況を思い出せなくなっています。良いインフレも悪いインフレも含め、そろそろインフレのことを思い出しても良い時期かもしれません。
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