こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。「ジェフ・ベゾス 果てなき野望」について後藤はまず、原文を読みました。原文のタイトルは「ザ・エブリシングストア(The Everything Store)」です。重要なところやポイントになる箇所にアンダーラインを引きながら読みました。その後に日本語訳を読んだのです。
日本語版を読み始めて最初に気づいたのは、アンダーラインを引いた重要箇所を日本語訳ではスルーしそうになったことです。なぜかというと翻訳のせいで重要と思われる意味がぼやけた感じになってしまっていたからです。翻訳が間違っているわけではないのです。が、ニュアンスが微妙に原文と異なるのです。理由の一つは、句点によって分けられた一つづきのワンセンテンスを、そのまま日本語でも長い1文にしているからではと思っています。複文で長くなったワンセンテンスも、日本語では2つ以上にパート分けで訳したほうがいいでしょう。直訳より意味訳のほうがいいのです。
例えば、リテーラー(retailer)という英語。一般的に「小売店」と訳されます。ただ、文章の前後の流れや文脈から「小売店」よりも「チェーンストア」「大手チェーンストア」と訳したほうがしっくりくるのです。日本語訳でも、いくつか散見されました。「小売店」のイメージは「売店」とか、パパママストアのような小さなお店を連想させます。それからアマゾンの成長に欠かせないのが物流の進化です。これは仕方がないことなのかもしれませんが、ディストリビューションセンターを物流センターと訳してしまっているのですね。フルフィルメントセンターと混同してしまうような箇所がありました。一般の人が読むには問題はありません。が、流通関係者が読むには面白さが半減するような気がしました。些細なことかもしれませんが、オムツなどをネット販売するダイパーズ・コム(diapers.com)をダイアパーズ・コムと表記していました。ダイアパーズって何?思いました(笑)。
「ジェフ・ベゾス 果てなき野望」は中立的に書かれていますが、読む人の立場によってアマゾンやジェフ・ベゾス氏の印象が変わります。経営者以外の人にとって、アマゾンは従業員を酷使するブラック企業であるようなイメージを持たれる方が一般的に多いのではと推測します。
顧客志向第一と謳っている反面、倉庫での過酷な労働環境とか、役員にも高い要求をぶつけ、気に入らないと辺りかまわずどなり散らすところ(退職する社員もかなり多い)など、関係者としてアマゾンやジェフ・ベゾス氏に関わりたくないような気分にさせます。競争相手やパートナーに対してでさえも、自社に有利となれば徹底的(偏執狂的というか)に利用していくところは寒気さえ感じます。キンドル発売時での出版社との強引で際どい交渉術や、強烈な価格競争を仕掛けザッポスを屈服して飲みこんでしまう買収策など枚挙にいとまがありません。ただウォルマートCEOのダグ・マクミラン氏はこの本を違った見方で読んでいるのですね。
文:後藤文俊(流通コンサルタント)
※「激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ」より転載