数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
「ゼロから年商10億円企業を創る」松本 剛徹 著、ぱる出版 刊
「織田信長、豊臣秀吉、徳川家康」「吉田松陰、木戸孝允、伊藤博文」…何の組み合わせと思われるかもしれないが、これは時代の移り変わりに必要なリーダーの「役割」を示すもの。旧い時代を「否定」(信長・吉田松陰)し、新しい時代を「創造」(秀吉・木戸孝允)し、「安定」(家康・伊藤博文)させる者たち。企業の発展段階もまさにそれだ。
本書は起業から年商1億円までを「幼少期」のステージ1、年商5億円までを「青年期」のステージ2、年商10億円までを「成人期」のステージ3とし、戦国時代や明治維新を完結するため個性や能力が違う3人が必要だったように、会社もステージに応じて経営戦略を変えなくてはいけないというのが著者の主張だ。
戦国時代や明治維新では「戦略」ではなく、「リーダー」を変えることで対応した。経営も3代かけて変われば良さそうなものだ。なぜ1代で?その理由は、この本の前提が「企業売却」であること。最終章のタイトルは「会社売却M&A【卒業期】の出口戦略」だ。
著者は2011年にリアルネットを創業。化粧品通販事業で成功し、年商10億円企業に成長させて2019年に売却した。その他にも事業を立ち上げて売却しており、シリアルアントレプレナー(連続起業家)を名乗る。
「一つの事業に生涯を賭ける」のが美徳だったわが国の経営者にも、「今やっている事業が成長したら売却し、新たな事業を立ち上げて次のステージに移る」ことに価値を見出す新世代の若手経営者が増えている。そうした「出口戦略」を持つ経営者やアントレプレナーを目指す人たちに最適な1冊だろう。
とはいえ、「今ある会社を一生守っていく」という経営者にとっても参考になる。新型コロナウイルス感染症の拡大、イノベーションによる既製技術の陳腐化や競争激化など、企業を取り巻く環境は厳しくなる一方だ。企業売却を目指すアントレプレナーが旨とするビジネスの「早期成長」は、たとえ企業を売却するつもりがないとしても生き残るのに必要な戦略といえる。
さらにおすすめなのはサラリーマン。日本企業の場合は新入社員から定年退職までの間、一つの事業だけで勤め上げる人は少数派だ。様々な事業に従事し、そこで成果をあげた者が昇進していく。実は著者のようなシリアルアントレプレナーに最も近いキャリアパスを通るのがサラリーマンなのだ。「企業」を「事業」に置き換えれば、サラリーマンにとっても有用な戦略といえよう。
「30代前半までをステージ1」「40代前半までをステージ2」「50代前半までをステージ3」を経て、「60代前半までのステージ4」で最高の「出口」を迎えるための指針として読める。4月に入社したばかりの新入社員が読んでも、会社人生のゴールから逆算して「これからやるべきことは何か」を考えるヒントになるはずだ。(2021年3月発売)
文:M&A Online編集部
超金融緩和政策に危機感を持つ日銀OBが、日銀と政府の経済政策を批判し、新たな提言を打ち上げる。こうした行為をクーデターと呼び、クーデターに協力する者、クーデターを抑えようとする者たちの攻防を描いた。