数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

「ドキュメント 日銀漂流 試練と苦悩の四半世紀」 西野 智彦著、岩波書店刊

1998年4月、独立性向上を旗印とする新日本銀行法が施行された。前年に三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券がバタバタと倒れ、98年秋には日本長期信用銀行、日本債券信用銀行が破たんした。その後の険しい道のりを暗示するかのように、金融動乱の嵐の中で、新生・日銀が船出した。

日銀漂流

戦時立法の旧日銀法は日銀を政府の指揮下に置いていた。戦後の法改正でとりあえず金融政策は日銀の専決事項になったものの、実際には大蔵省(現財務省)や政治の介入に悩まされ続けてきた。それゆえ、中央銀行としての「独立」を日銀マンの誰もが願っていた…。

プロローグは1996年3月、即断即決で鳴る副総裁の福井俊彦(後の総裁)がじっと考え込む姿から始まる。大蔵省バッシングの“副産物”として突如浮上した日銀法改正論議。進んで乗るか、それともしばし様子を見るか。日銀の独立性を巡って過去にも意見集約ができず、法改正が流れたことが二度あったのだ。

本書は5章構成。第1章は日銀法改正と未曾有の金融危機に対処した「松下時代」。バブル退治で「平成の鬼平」の異名をとった三重野康からバトンを受け継いだのが大蔵省出身の松下康雄総裁だった。第2章「速水時代」、第3章「福井時代」。第4章「白川時代」、そして第5章「黒田時代」と歴代総裁ごとに章を立てた。

日銀法改正を起点として、ゼロ金利、量的緩和、戦後初の日銀総裁空席、リーマン・ショック、異次元緩和、コロナ・ショック、安倍晋三首相退陣、菅義偉首相発足までのおよそ25年間。激動の局面で日銀はどう判断し、いかに動いたのか。政策形成プロセス、政治との距離感、財務省との駆け引きの痕跡が膨大かつ細部にわたるファクト(事実)の積み上げによって明らかにされる。

できるだけ多くの当事者から話を聞き、公開・非公開の内部文書や個人の日記、備忘録などをかき集めたという。その取材力には頭が下がる。著者は時事通信社、TBSで経済記者として活躍し、指折りの日銀ウオッチャーとして知られる。

中央銀行のあり様とは? 理論と実践、理想と現実の狭間で“漂流”する日銀の来し方行く末を知る手がかりとして格好の一冊だ。(2020年11月発売)

文:M&A Online編集部