「再建の神様」|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

「再建の神様」 江上 剛著、PHP研究所刊

昭和の時代には「経営の神様」も「再建の神様」も存在した。「経営の神様」と呼ばれたのは松下電器産業(現パナソニック)を創業した松下幸之助。かたや、「再建の神様」の異名で名高いのが早川種三。

再建の神様

物語の主人公、春木種生は首都圏の地方銀行に勤める若手行員。名前の種生は亡くなった父が尊敬していた早川種三にあやかり、一字を拝借。今では当の種生にとっても種三は憧れの人物だ。

だが、「銀行員になったら早川さんのように企業を支え、助けるんだぞ」という父の言葉もむなしく、理想と現実の狭間で挫折する。ノルマに追われ、不正まがいの投資物件をセールスした男性が自殺してしまうのだ。

現実から逃げるかのように種生は東北新幹線に飛び乗った。目的地は仙台。早川種三の故郷に向かえば、何かに出会えるかもしれない…。

そんな種生が車中で、偶然出会ったのが再建請負人を名乗る渋沢栄二。渋沢に誘われるままに郡山で下車し、磐越西線に乗り換えた。共に向かった先は倒産の危機に瀕した会津の温泉旅館。3つの老舗旅館を「やわらぎの宿」として1つに統合し、再建を進めるプロジェクトが待っていた。

種生は渋沢の下で再起をかけて「やわらぎの宿」の一社員として働き始める。実は、渋沢自身も今回再起を誓っていた。経営立て直しに成功しながらも最終的には一敗地に塗れた苦い過去があったからだ。

初めは、よそ者扱いされる渋沢と種生。地元の同業者の抵抗や寄り合い所帯の従業員の対立、仕入れ先との軋轢も数知れない。「再建するのは、企業ではありません。街であり、人です」。渋沢イズムが次第に浸透し、ワンチームとしてまとまっていく様は見もの。

再建を果たしたかに見えた時、襲ったのが東日本大震災。未曾有の危機にこのチームはどう立ち向かったのか。読んでみてのお楽しみだ。

本書のタイトルともなった早川種三は昭和中期から後期に、日本特殊鋼(現大同特殊鋼)、興人などの再建を託されたことで知られる。なかでも興人は1975年に約1500億円に上る負債を抱えて行き詰まり、当時として戦後最大の倒産だった。

本書では数々の企業再建に臨んだ際の種三のエピソードや言葉が随所にちりばめられ、種生や渋沢を勇気づける。(2021年3月発売)

文:M&A Online編集部 

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