「アクティビスト 取締役会の野蛮な侵入者」|編集部おすすめの1冊
米国や欧州でビジネスと投資関連の取材をしてきた米国のジャーナリストが、多くの関係者にインタビューを行い、アクティビスト(物言う株主)と企業との熾烈な攻防戦に光を当てたのが本書。
数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
『アイアンハート−ゼロから12年で年商7700億円企業を創った不撓不屈の起業家』 折口雅博著、昭文社刊
防衛大学校を卒業後、日商岩井に入社して巨大ディスコ「ジュリアナ東京」や「ヴェルファーレ」を成功させ、介護会社コムスンを含む総合人材サービスのグッドウィル・グループを設立。1999年には店頭公開を果たし、従業員10万人、年商7700億円、時価総額7800億円の巨大企業グループに成長させた著者の「自伝」兼「経営論」兼「教育論」である。
著者は2007年6月に子会社のコムスンが厚生労働省から介護報酬の過剰請求を理由に介護サービス事業所の新規及び更新指定不許可処分を受け、2008年3月にグッドウィル・グループ会長を辞任。大いなる挫折を味わった。
その後、著者は渡米してマンハッタンの和食レストラン「MEGU」でチェアマンを務め、モスクワ、ドーハ、スイス、インドなどのリゾートで事業を展開する。「MEGU」はサービスビジネスの格付け機関アメリカン・アカデミー・オブ・ホスピタリティー・サイエンス(AAHS)から6つ星認定を受けた。
著者はその「MEGU」を事業譲渡し、現在はニューヨークと東京に拠点を置くブロードキャピタル・パートナーズの最高経営責任者(CEO)として起業家を育成している。
さて、本書は第一部が自伝、第二部が起業家の心得、第三部が世界で勝つための戦略的な思考力をつけるための教育という構成になっている。同書の醍醐味は、なんと言っても第一部だ。ソフトバンクの孫正義氏やパソナの南部靖之氏、エイチ・アイ・エスの澤田秀雄氏、ワタミの渡邉美樹氏らと並ぶ「ベンチャービジネスの旗手」として脚光をあびた起業家の怒涛の人生が語られる。
一方、第二部と第三部は取り立てて読むところがない。いわば「どこかで聞いたことがある」凡庸な経営論・教育論だ。第二部の「株式総会は経営者の手腕の発揮場所」や「その胸に『夢やビジョン』はあるか」「社会や他人の軸でなく『自分の軸』で生きる」などは、「それはそうでしょう」以上でも以下でもないし、初めて聞くフレーズでもない。
首をひねる内容もある。M&A成功の秘訣が「宮崎シーガイアの巨大屋内プール・シーガイアでの貸切パーティー」や「個人所有の別荘でM&Aした社員同士のおもてなし」というのは、確かにグッドウィル・グループでは機能したのかもしれないが、一般的に通用する方法ではないだろう。
第三部は著者の子供の就学を通じて得た知見を元にした教育論である。その内容は一貫して「米国すごいぞ!」。確かに米国の教育には見るべきところは多くある。著者の指摘もごもっともだ。が、本書で紹介する米国の教育システムや入試制度については日本でも盛んに取り上げられており、新味はない。
確かにGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)を生んだのは、全世界から優秀な学生を集めて競争させる米国の「メジャーリーグ方式」教育システムだ。しかし、GAFAの次に来る全く新たな価値を創造するには、苛烈な競争でエリートを選抜する米国式よりも、国境をまたいで複数の大学を渡り歩く遍歴職人的な欧州式の教育システムの方が適しているかもしれない。
もう一つ見どころがあるとすれば、第14章の「すばらしい経営者たち」だ。19組のベンチャー起業家が紹介されている。著者と彼らとの対話を書籍化すれば、読み応えのある内容になるのではないか。新作に期待したい。(2020年12月発売)
文:M&A Online編集部
米国や欧州でビジネスと投資関連の取材をしてきた米国のジャーナリストが、多くの関係者にインタビューを行い、アクティビスト(物言う株主)と企業との熾烈な攻防戦に光を当てたのが本書。
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