【会計士が解説】「社長」と「CEO」は違うの?
日本の会社法では、CEOという役職を一切定義していません。今日は社長とCEOといった肩書の法律上や実務上の位置づけについて、日本、米国、中国、フランスの状況について解説します。
毎日暑い日が続きますが、体調は如何でしょうか。このように異常な暑さになるのは、高気圧が暖かい空気を閉じ込める「ヒートドーム」現象に一因があるとのことです。
今回は、気候変動にも関係するサステナビリティ情報についてお話しましょう。
今年の3月期決算会社から有価証券報告書(以下「有報」)におけるサステナビリティ情報の開示が始まりました。ほぼ同じタイミングの本年6月、国際基準の策定団体であるISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が、S1「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」とS2「気候関連開示」の確定版を公表しました。
日本では、財務会計基準機構(FASF)の傘下にSSBJ(サステナビリティ基準委員会)が設置され、日本の開示基準の検討が始まっています。
日本の基準は、ベースラインとされる国際基準のS1、S2及び今後公表される基準を基にして策定されます。
今のところ、日本のサステナビリティ開示基準がないため、有報開示について規定した「企業内容等の開示に関する内閣府令」(開示府令)が改正され、サステナビリティ開示に関する規定が追加されています。日本の開示基準が確定した後、有報のサステナビリティ情報の開示は、その基準に基づいて行うことになります。
なお、開示府令改正前にS1とS2の公開草案が公表されており、これらを参考にして開示府令が改正されています。たとえば、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標の4つの構成要素に分けて開示することは、S1を先取りした形になっています。
国際基準のS1では「この基準は、企業のキャッシュフロー、資金調達または資本コストに対して、短期、中期または長期に影響を及ぼすことが合理的に予想されるすべてのサステナビリティに関連したリスクと機会についての情報開示を要求する」としています。
この国際基準の対象になるのは、企業における「すべてのリスクと機会」ではなく「すべてのサステナビリティに関連したリスクと機会」です。残念ながら、S1においてはサステナビリティとは何かについての定義が示されていません。
これに関しては、経団連は公開草案に対して「サステナビリティの明確な定義を行うべきである」という意見を提出していましたが、確定版には反映されませんでした。おそらく同様の意見が多く出ていたと思いますが、結論が出なかったのではないかと思われます。
なお、サステナビリティは、どちらかというと中長期的な観点での持続可能性を指すことが多いと思いますが、上記のS1の定義では、短期が含まれることに注目する必要があります。
サステナビリティ情報開示が始まった2023年3月期の有報を分析してみると、次のような印象を受けました。
(1)気候関連を重要課題とした会社は、TCFDの枠組みに基づき「ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標」に分けて開示している会社が多い
(2)人的資本については、開示府令に従って「戦略」と「指標及び目標」を記載しているが、人的資本に関する「ガバナンス」と「リスク管理」を明確に記載している会社が少ない
(3)気候関連と人的資本以外の重要課題については、「ガバナンス」及び「戦略」の全般において言及しているが、独立項目として記載している会社は少ない
開示府令においては、人的資本について必ず開示対象とすることになっています。開示の内容は、「人材育成の方針や社内環境整備の方針」(以下「人材育成等」)に関する「戦略」と「指標及び目標」です。
人的資本がサステナビリティ情報開示の対象となったのは、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」に基づく日本政府の政策が背景にあるからと考えられます。
多くの会社は、サステナビリティの重要課題として多様性と人権だけを挙げ、人材育成等については経営の課題としては挙げているものの、サステナビリティの重要課題にはしていなかったのではないかと思います。
開示する会社側からすると、従来、経営方針や経営計画に掲げていた人材育成等をサステナビリティの重要課題にしなさいと言われても、急にはできなかったのが現状ではないかと思います。
人的資本の例で分かるように、経営方針や経営計画における課題であるか、サステテナビリティの課題であるかの区別が難しくなってきたと言えると思います。
サステナビリティに関する活動は、会社としての重要課題である以上、経営方針の一部であり、経営計画に含まれるべきものと考えられます。そうすると、経営方針や経営計画のうち、サステナビリティ活動を抜き出して記述するのが、サステナビリティ情報開示ということになります。
このため、経団連が言うようにサステナビリティの定義をはっきりしてもらわないと困ることになります。しかし、本来、サステナビリティの範囲や定義は、会社が判断することではないでしょうか。業種業態によっては、サステナビリティの重要課題が経営戦略のすべてである、ということもあるかもしれません。反対に、人的資本以外にサステナビリティの重要課題はないという会社もあるでしょう。
この機会に自社にとってのサステナビリティの意味や位置づけを検討してみては如何でしょうか。
日本の会社法では、CEOという役職を一切定義していません。今日は社長とCEOといった肩書の法律上や実務上の位置づけについて、日本、米国、中国、フランスの状況について解説します。