政府が「盟友」のはずだった富裕層の資産を狙い撃ちする理由

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資産所得への課税は富裕層には負担が大きい(写真はイメージ)

富裕層を手始めに「増税」狙う

そこで目をつけたのが、富裕層をターゲットにした資産所得である。政府・与党は2023年度の税制改正で、給与所得と資産所得を合計した総所得が高額な場合に一定の税率をかけて課税する新たな税制を検討中だ。

資産増税を避けるために海外へ資産を逃避させる動きへの予防策も始まった。国税局は非居住者の金融口座の情報を他国の税務当局との間で自動的に交換するCRS(共通報告基準)情報を利用した海外財産や申告漏れの調査を強化。円安による為替差益や1億円以上の有価証券を保有する海外移住者に課せられる出国税(国外転出時課税)などを逃れる「抜け穴」を、徹底的に塞(ふさ)ぎにかかっている。

与党の「岩盤支持層」である富裕層を狙う理由は二つ。一つは資産額が多い富裕層への課税は当然ながら税額が高く、効率的に税収を得られること。

もう一つは課税対象として検討している富裕層の人数の少なさだ。政府・与党が最高税率の適用を想定している総所得が5億円を超える富裕層は、2020年時点で2200人しかいない。資産額は大きいが、有権者としては圧倒的な少数派だ。かつて富裕層は政治資金の有力な担い手だったが、政治資金に対する規制が厳しくなった現在では富裕層の社会的地位を利用した「票の取りまとめ」しか期待できない。

しかも、小泉政権、安倍政権と「国民的人気」の高い政権が長期安定したことから、与党も富裕層など有力者による票の取りまとめという「間接集票」よりも、一般有権者に広く訴求する人気とパフォーマンスによる「直接集票」へシフト。富裕層の政治的影響力が低下している。

つまり人数が圧倒的に少なく、政治的影響力が小さい富裕層が資産増税で反発しても、与党は痛くも痒くもないのだ。

だが、一般国民も「富裕層だけがターゲットだから」と安心してはいられない。政府債務残高は富裕層への資産増税だけでは賄(まかな)えないからだ。資産課税の対象となる総所得は、現在検討中の5億円から順次引き下げられるのは避けられない。さらに対象となる資産も株式や不動産運用益だけでなく、預金にまで広がる可能性もある。富裕層への資産課税は「対岸の火事」ではない。

文:M&A Online編集部

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