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トヨタ豊田会長にNOを突きつけた助言会社、その影響力と仕組みは

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助言会社2社から取締役再任に「反対」を推奨された豊田章男トヨタ自動車会長(Photo By Reuters)

6月18日の株主総会で提案されるトヨタ自動車<7203>の豊田章男会長の取締役選任議案を巡って、インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)とグラスルイスの米議決権行使助言会社2社が「反対」を推奨した。なぜ反対なのか、そしてその影響力は?

相次ぐ不祥事で豊田会長の再任に「反対」

ISSが提示したリポートによると、ダイハツ工業や日野自動車、豊田自動織機などのグループ各社で相次いだ認証試験での不正問題について、2009年から15年間にわたって経営の主導権を握ってきた豊田会長に最終的な説明責任があると指摘している。

その上で会社提案の取締役候補者やトヨタが明らかにした不正対策から見て、「企業文化を変える」というトヨタの主張とは裏腹に旧来の企業文化を維持する傾向が疑われるとして「反対」を推奨した。

グラスルイスも同様に一連の不正で豊田会長の責任を指摘。トヨタグループのガバナンス体制に重大な懸念が生じていることを問題視した。取締役候補者に独立性のある人物が十分にいないため、取締役会の適切な監督機能の遂行能力に懸念があるとして「反対」を推奨している。

問題はその影響力だが、日本人投資家は外国人投資家ほど議決権行使助言会社の推奨に左右されない傾向がある。そのため日本の大企業において助言会社の「反対」推奨で、トップ人事が否決された事例はほとんどない。

決して軽視できない助言会社の「反対」

ただ、2019年6月に両社が日産自動車<7201>CEO(最高経営責任者)だった西川廣人氏の取締役再任決議に、カルロス・ゴーン元会長の解任以降の経営の混乱やルノーとの関係悪化などを理由として、両社が「反対」を推奨した。

この時の株主総会では再任されたが、後に西川氏がゴーン元会長同様、不当に多い報酬を得ていたことが発覚。同9月の取締役会で辞任に追い込まれている。

豊田会長は2023年5月にも「取締役の独立性が不十分」として、グラスルイスから取締役選任議案に「反対」を推奨された。この時はISSが同議案に「賛成」を推奨したが、株主総会での支持率は2022年の約96%から約85%と11ポイントも下落している。

今回は大手2社が共に「反対」を推奨しており、支持率にどのような影響があるか注目される。とはいえ、トヨタは2024年3月期連結決算で過去最高となる5兆3529億円の営業利益を計上しており、豊田会長の選任議案が否決される可能性は低い。

しかし、不正問題に加えて電気自動車(EV)シフトへの乗り遅れなどの懸念材料もある。今後、トヨタの業績が悪化した場合は、両社の「反対」推奨がボディブローのように効いて「豊田会長降ろし」につながりかねない。軽視は禁物だ。

1980年代の規制強化で登場した助言会社

議決権行使助言会社は1985年にコーポレートガバナンスと機関投資家の議決権行使の質的向上のため、ISSが発足したのが始まり。2003年にグラスルイスが設立し、議決権行使助言業界はこの2社による寡占状態となっている。

きっかけとなったのは、1980年代後半の「ERISA(従業員退職所得保証)法解釈通牒エイボンレター(米労働省が年金基金の受託者に対して経営者の圧力行使を警告した書簡)」や投資ファンドを規制する「1940年投資顧問法」規則改正などの規制強化だ。

年金基金や資産運用者が保有する株式の議決権を適正に行使する責任が明確に示され、機関投資家による助言業務の外部委託が当り前になった。その受け皿が両社なのだ。

主な事業は事務代行サービスとリサーチ・助言サービスの二つ。事務代行サービスでは顧客に代わって上場企業から議決権行使書類などが遅滞なく送付されているかといったプロセスの進捗管理と、顧客の方針や意向に基づく議決権行使の代行を手がける。

M&Aでも活発な助言

議決権行使助言会社で話題になるのが、豊田会長選任の「反対」推奨のようなリサーチ・助言サービスだ。上場企業の議案に関するリサーチや賛成・反対・保留の助言に関するレポートの提供、機関投資家の議決権行使方針策定に対する助言などを手がける。

議決権行使助言会社は、勝手気ままに助言しているわけではない。自社が推奨の判断材料とする議決権行使方針モデルを毎年改定の上、公開している。

2024年にISSはコロナ禍によって適用を一時停止していた ROE(自己資本比率)基準の適用再開を決めた。グラスルイスは女性役員不在の賛否判断での例外規定の適用停止や、気候変動に関する情報開示基準の適用対象を拡大している。

議決権行使助言会社が手がけるのは取締役の選任だけではない。M&Aについても、機関投資家の利益に直結する買収防衛策などで積極的に助言している。

2023年11月に国内石油元売り大手のコスモエネルギーホールディングス<5021>が提案した、旧村上ファンド系の投資会社に対する買収防衛策の発動について、ISSは「賛成」、グラスルイスは「反対」を表明し見解が分かれた。結局、同12月に旧村上ファンド系投資会社側がコスモ株の大半を岩谷産業に売却し、コスモが買収防衛策を廃止している。

文:糸永正行編集委員

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