GMPによる品質管理の範囲は、医薬品原材料の入荷、検品から製造、製品の包装、出荷管理、輸送、製品保管、回収処理など幅広い。政府が最初の接種を目指している米ファイザーのコロナワクチンはm(メッセンジャー)RNAを利用したもので、品質を保つにはマイナス70度以下で保管する必要がある。
超低温の冷凍庫ならば最長で6カ月間は保管できるが、入手しやすい2~8度の冷蔵庫では5日間程度しか保管できない。米国から到着したワクチンを病院や接種会場まで輸送するには10日ほどかかるとみられ、その間はドライアイスで保冷することになる。
しかし、日本では大量のワクチンを輸送するだけのドライアイスの確保が難しい。ワクチン輸送に必要なドライアイスは9〜16ミリメートルのペレット状に加工しなければならないが、国内で流通している形状やサイズではないため調達は困難という。
こうした国内での輸送や保管のプロセスを標準化し、承認するには時間がかかる。厳しすぎては大量輸送ができない。甘すぎれば病院や接種会場へ到着する前、あるいは直後に効果が失われるなどの品質問題を引き起こすからだ。薬事行政だけの問題ではない。輸送と保管というロジスティクスを解決する必要がある。
新たにワクチン担当大臣を兼務する河野行政改革担当大臣は「ワクチンや注射する医師は厚労省、冷蔵庫は経産省、物流は国交省、使った針などは環境省、学校を使えば文科省、自治体の関係は総務省などと調整に当たる」と話しているが、これはまさにGMPの問題なのだ。
日本のワクチン接種が最後に突破しなければならない「壁」は、GMPに関わるロジスティクスの限界なのである。
文:M&A Online編集部