効果や副作用ではない!ワクチン承認が遅れている「意外な理由」

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第3波で過去最大の感染者を出している日本。欧米諸国では2020年末から始まっているワクチン接種だが、日本ではまだ承認すら下りていない。菅義偉首相は河野太郎行政改革担当大臣を新型コロナウイルスワクチン接種担当大臣(兼務)に指名するなど、早期接種を急ぐ。なのに、なぜ承認が下りないのか。

新型コロナワクチン接種の最前線に立つ河野担当大臣(首相官邸ホームページより)

なぜ日本は承認に手間取っているのか?

厚生労働省がワクチンの効果や副作用について懸念しているのか?旧態依然とした手続きで作業が進まないのか?いずれも違う。日本人に対する治験件数が少ないとの指摘もあるが、一刻も早い接種が待たれる新型コロナワクチンだけに外国人で効果があれば大きなネックにならない。菅首相が政治生命を賭けていると言っても過言ではないワクチン接種だけに、「お役所仕事」で遅れているというわけでもない。

実はワクチンそのものの問題ではないのだ。ワクチンに限らず、薬品の承認は単に薬効や副作用が明らかになれば下りるというわけではない。それ以外に「GMP」という基準をクリアしなくてはならないのだ。GMPとはGood Manufacturing Practiceの頭文字を取ったもので、日本語では「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準」のこと。

分かりやすく言えば「誰が、いつ作業しても、必ず同じ高品質の製品を作るために実行すべきプロセス管理」を指す。具体的には「人による間違いを最小限にする」「医薬品が汚染されたり、品質が低下したりするのを防ぐ」「高い品質を保つ仕組みをつくる」のが目標になる。

最大の障壁はロジスティックス

GMPによる品質管理の範囲は、医薬品原材料の入荷、検品から製造、製品の包装、出荷管理、輸送、製品保管、回収処理など幅広い。政府が最初の接種を目指している米ファイザーのコロナワクチンはm(メッセンジャー)RNAを利用したもので、品質を保つにはマイナス70度以下で保管する必要がある。

超低温の冷凍庫ならば最長で6カ月間は保管できるが、入手しやすい2~8度の冷蔵庫では5日間程度しか保管できない。米国から到着したワクチンを病院や接種会場まで輸送するには10日ほどかかるとみられ、その間はドライアイスで保冷することになる。

しかし、日本では大量のワクチンを輸送するだけのドライアイスの確保が難しい。ワクチン輸送に必要なドライアイスは9〜16ミリメートルのペレット状に加工しなければならないが、国内で流通している形状やサイズではないため調達は困難という。

こうした国内での輸送や保管のプロセスを標準化し、承認するには時間がかかる。厳しすぎては大量輸送ができない。甘すぎれば病院や接種会場へ到着する前、あるいは直後に効果が失われるなどの品質問題を引き起こすからだ。薬事行政だけの問題ではない。輸送と保管というロジスティクスを解決する必要がある。

新たにワクチン担当大臣を兼務する河野行政改革担当大臣は「ワクチンや注射する医師は厚労省、冷蔵庫は経産省、物流は国交省、使った針などは環境省、学校を使えば文科省、自治体の関係は総務省などと調整に当たる」と話しているが、これはまさにGMPの問題なのだ。

日本のワクチン接種が最後に突破しなければならない「壁」は、GMPに関わるロジスティクスの限界なのである。

文:M&A Online編集部