粉飾発覚の堀正工業、多数の決算書と「幻のM&A」

alt
複数の決算書を作成していた堀正工業 ©東京商工リサーチ

2023/06/23

 6月23日、堀正工業(株)(TSR企業コード: 291038832、品川区)は再度の資金ショートを起こし、事実上倒産した。
 会社公表の2022年9月期決算の負債は数十億円だったが、実際は金融債務だけでも300億円を上回る。6月5日付で、弁護士が金融機関に向け「不適切な会計処理の調査に関して(堀正工業から)依頼を受けた」旨を通知しており、関係先は緊張感を持って状況把握に努めている。
 東京商工リサーチ(TSR)は独自取材を進め、堀正工業が関係先へ提示した約10通の2022年9月期の決算書を入手した。決算書の様式はすべて同じだが、各勘定科目には一部を除き異なる数字が記載されている。
 ここまで大掛かりな粉飾決算(通知では「不適切な会計処理」と記載)は、金融機関の内情を熟知した人物の関与を疑わざるを得ないレベルだ。

「紹介」による取引開始

 堀正工業が借入していた金融機関は、TSRが入手した決算書上では三菱UFJ銀行、みずほ銀行、商工中金、群馬銀行の4行が共通し、最後に提出先の金融機関名が記載されている。すべて4行プラス1行の5行が記載されているが、借入金の内訳は4行のうち、群馬銀行だけが残高が共通で、残り3行はすべて異なる。プラス1行の金融機関は、当然だが正しい借入金の残高が記載されている。
 ただ、実際は40行を超える金融機関と取引があったとされ、多くは地方銀行だ。なぜ、これだけ多くの地方銀行が堀正工業と取引したのか。そこにはある人物の姿が浮かび上がる。
 金融機関の担当者によると、本店や本部との接点を持つ人物が「紹介したい企業があるので、都内の担当支店(担当者)を紹介して欲しい」と依頼してきたという。金融機関への取引先の紹介は珍しくない。また、「貸す」、「貸さない」は金融機関が判断するため、紹介があっても取引を断るケースはよくある。
 ただ、企業から正しい情報(決算書や会社の現状)の提供が前提で、最初から疑って判断することはほとんどない。

堀正工業の代表者との顔合わせ

 金融機関の担当者によると、堀正工業の代表者との初めての顔合わせには、紹介した人物が同席したという。その後、借入に関する話に移ると紹介した人物は退席し、代表者と金融機関の担当者で話は進められた。その際に提示された決算書は、金融機関として「問題がない」と判断された。
 TSRの取材によると、多くの金融機関の堀正工業の債務者区分は「正常先」で、無担保・無保証で貸出されたケースもある。
 融資取引では、堀正工業の主力取引先の出身者が役員に入っていたこともプラス要素になったという。

20年以上前から粉飾の指摘も

 さらに取材を進めると、20年以上前に堀正工業に粉飾決算を指摘した金融機関があることが判明した。堀正工業の粉飾決算は、かなり長期にわたっていた可能性がある。
 粉飾決算かどうかは金融機関が判断する。だが、確証がなければその金融機関内の話にとどまる。一方、堀正工業は新たな貸出先を求める銀行の心理を逆手に取り、新規取引を持ち掛けていたようだ。
 2005年4月に施行された個人情報保護法の存在も無視できない。金融機関は「横の連絡」が難しくなり、粉飾決算の発覚が遅れる一因ともなっている。

幻のM&A計画

 今春以降、事態は大きく動き出す。5月後半には堀正工業の粉飾決算がクローズアップされるようになった。だが、その裏で、堀正工業はある会社の買収話を複数の金融機関に持ち込んでいた。
 「今年3月19日に東北の企業と基本合意を結び、5月末には提携実行」
 具体的な内容だった。金融機関には「すでに買収資金は手当て済み」と説明し、運転資金の融資を要請した。しかし、話を持ち込んだすべての金融機関で条件が合わず、断られている。そして、5月後半に堀正工業の粉飾決算が公になる。この段階の融資話は厳しい資金繰りをしのぐ窮余の一策だったかもしれない。

とある会合で弁護士からの通知が話題に

 6月に金融機関の集まりで、ある金融機関が「堀正工業から弁護士の受任通知が届いた」とつぶやいた。すると参加していた別の金融機関が「うちでも取引がある」と次々に声を上げ、決算書に記載されていない金融機関との取引が多くの金融機関に知れ渡ることとなった。粉飾が発覚した瞬間でもあった。

決算書の相違点

 TSRが独自に入手した決算書を分析すると、数値が一致する勘定科目より相違する科目の方が多い。主だった勘定科目の最高額と最低額の差は、定期預金が7億円、受取手形が1億円、商品が3億円、貸付金が4億円などで、流動資産合計は最大19億円の差があった。また、流動負債は支払手形1億円、短期借入金5億円などで、固定負債は長期借入金が16億円の差があった。
 損益計算書では、売上高と経常利益以下は同じ。売上原価から経常利益の間で決算書ごとに違いがあった。
 ある金融機関は、「堀正工業が長年にわたり、すべての金融機関に異なる決算書を提出していたら、それはそれで“凄いこと”だ」と、様々な感情を込めて話す。長年の粉飾決算の労力を考えると、経営立て直しに力を入れた方が楽だったのでは、と揶揄する声もある。

 その後、堀正工業は「粉飾決算」を認め、金融機関は期限利益の喪失を通知した。主力取引先では、その数カ月前に堀正工業の財務面への疑問が上がっていたとの話もある。
 2017年3月に破産した(株)てるみくらぶ(TSR企業コード:296263001、渋谷区、旅行業)以降、意図的に粉飾決算で金融機関から借入れた場合、詐欺罪の適用も視野に入るようになった。
 不正に調達した資金がどこに消えたのか、法の下で解明を求める声が強まっている。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年6月26日号掲載予定「取材の周辺」を再編集)

東京商工リサーチ「TSRデータインサイト」より

NEXT STORY

アクセスランキング

【総合】よく読まれている記事ベスト5