予算総額9500万円の討ち入りプロジェクト『決算!忠臣蔵』

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©2019「決算!忠臣蔵」製作委員会


<見どころ>

●役方と番方の対立は、現代の会社における経理と営業の攻防戦さながら

討ち入りという一大プロジェクトを経済的側面から描いた本作。観客に諸々の経費を実感してもらうため、スクリーン上で現在の価格に換算して表示するところが面白い。当時、店で食べる蕎麦の価格はおよそ16文だったので、現在の蕎麦の価格を480円として1文=30円。金1両=銀56匁=銭4000文=12万円となる。

赤穂藩は改易(取り潰し)となり、役方(経理担当)が残務整理を敢行。残っている資産を売り払い、藩士への割賦金(退職金)などの支払いをしていく中で、精算されていなかった領収書が次々と出てくる。代官との食事代が14万2000円、大坂・蔵屋敷の買い物が240万円などなど。支払いを渋る役方に番方(いくさ担当)が「義理を欠いては御家の恥」と支払いを懇願する。現代の会社における経理と営業の攻防戦を見ているようだ。

そして諸々の精算が済んだ後の残高は790両2朱、銀46匁9分5厘。現在価格にして約9500万円を総予算として、まずは御家再興を目指すプロジェクトが開始された。

●適材適所のマネジメントで討ち入りを遂行

主君の弔い、御家再興のための工作費、討ち入りを唱える急進派を押しとどめる費用、江戸への旅費、武器の調達。1つ1つ明らかになる金額はいずれも現代とは比べ物にならないほど高い。何をするにもお金がかかるのだ。限られた予算でいかにして討ち入りを成就させるか。内蔵助は勘定方の矢頭にダメ出しを連発されながらも、目的達成に向かってプロジェクトを進めていく。

内蔵助は最初から討ち入りを考えていたわけではない。藩内の状況、親戚筋の思惑などを考慮しながら、浪士たちの心をうまくとらえる。その上で赤穂藩としてベストの道を探りながら、適材適所に人材を配するマネジメントで討ち入りを成し遂げた。

ところで、討ち入り資金の大半は主君の正室・瑤泉院の化粧料(持参金)。瑤泉院がそのお金5000両を赤穂の塩田問屋に貸し付け、資産運用していたものを内蔵助たちが回収したのだ。また、赤穂浪士の討ち入りといえば兜のような頭巾に、鎖帷子を着込んだ火事装束を思い浮かべる人が多いだろうが、そのわけは本作を見るとわかる。ほかにも内蔵助は1500石で年収は約6900万円など、忠臣蔵にまつわる豆知識が満載である。

●内蔵助の妻を演じた竹内結子のはにかむような色気に注目

数字だけでは映画として深みがない。中村監督は自ら脚本を書き、登場人物に人間味を足す。内蔵助は番方の討ち入り派からせっつかれ、役方から無駄使いを指摘される。困り果てる姿は私たちと変わらない。また、女好きなだけでなく、愛妻家の一面も見せる。堤真一が肩の力を抜き、関西弁で緩やかに演じて魅力的な内蔵助を作り上げた。

討ち入りに消極的だった毒見役の大高源吾は結局、最後まで内蔵助に従い、資金不足ゆえの討ち入りメンバーの“リストラ”を担当。意気込む浪士を巧みな話術で討ち入りを翻意させる。演じた濱田岳の真骨頂といえるだろう。

内蔵助の妻を演じた竹内結子が女にだらしない内蔵助をきっと睨みつける顔、内蔵助と2人きりのときのはにかむような色気はファンならずともたまらない。ほかにも、土壇場で逃げてしまう役どころの多い荒川良々が最後までやる気満々の堀部安兵衛を演じる意外性など、キャストが作り出す見どころもたっぷりだ。

文:堀木 三紀(映画ライター)

<作品データ>
映画『決算!忠臣蔵』
監督・脚本:中村義洋
原作:山本博文『「忠臣蔵」の決算書』(新潮新書)
出演:堤真一、岡村隆史、濱田岳、妻夫木聡、荒川良々、石原さとみ、竹内結子、西村まさ彦、寺脇康文、上島竜兵、堀部圭亮、山口良一、鈴木福、千葉雄大、滝藤賢一、笹野高史 ほか
配給:松竹
©2019「決算!忠臣蔵」製作委員会
公式サイト:http://chushingura-movie.jp/
2019年11月22日(金) 全国公開

決算!忠臣蔵


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