Client Alert 2026 年 3 月号(Vol.147)において紹介したとおり、経済産業省は、2026年2月4日に「公正な買収の在り方に関する研究会」を再開し、「企業買収における行動指針」(「本指針」)の趣旨の周知や必要なアップデートについて検討を進めていました。その後、同年6月18日、「『企業買収における行動指針』の解釈について(案)」(「解釈(案)」)、「『企業買収における行動指針』のポイント(案)」(「ポイント(案)」)及び「『企業買収における行動指針』Q&A(案)」(「Q&A(案)」)を公表し、同年7月17日までパブリックコメントの募集を開始しました。
これらの案は、本指針を維持することを前提に、買収を巡る関係者が本指針の趣旨をより適切に理解し、実践することを目的とするものです。「解釈(案)」では、本指針の策定後、日本企業が関連する M&A の件数・金額が増加し、本指針が参照される場面が増加している一方で、その趣旨について不十分な理解又は認識の乖離の可能性があることを踏まえ、「ポイント(案)」や「Q&A(案)」を通じて、本指針の趣旨を広く周知・徹底していくことが示されています。「ポイント(案)」では、本指針の3原則である企業価値・株主共同の利益の原則、株主意思の原則及び透明性の原則を前提に、「望ましい買収」、「真摯な買収提案」に対する「真摯な検討」、特別委員会の設置、買収者による情報開示・検討時間の提供等について、要点が整理されています。また、「Q&A(案)」では、望ましい買収、真摯な買収提案、真摯な検討、企業価値の検討、買収に応じる方針を決定する場合等について、設例を交えた解釈が示されています。
特に、「Q&A(案)」では、買収価格は、一般的には買収後の対象会社の企業価値を示す重要な要素とされていますが、例外的に、買収後の対象会社の企業価値と買収価格が見合わない場合があり得るとして、買収価格だけで判断されるべきではないことを示唆しています。また、「Q&A(案)」では、経済安全保障に対応する経営についても、対象会社の将来キャッシュフロー又は割引率への影響を通じて企業価値に含まれ得ることが、設例を交えて示されています。さらに、定性的な価値を過度に強調して企業価値の概念を不明確にしたり、経営陣の保身のために用いたりすべきではないことも指摘されています。
本指針は、「望ましい買収」の活性化を促すため、経済社会において共有されるべき原則論及びベストプラクティスを提示するものであり、実務上も参照されています。上記のような買収価格のみで判断されるべきではないとする点や経済安全保障上の観点が企業価値に及ぼす影響も加味すべきとする点について、今後、パブリックコメントを踏まえてどのように解釈、ポイント及び Q&A が最終化されるか、また、最終化された内容を踏まえ、買収提案に対する対応、取締役会・特別委員会における検討体制、株主に対する説明・情報提供の在り方について、どのように実務が定着していくか等が注目されます。
パートナー 大石 篤史
パートナー 鈴木 克昌
アソシエイト 橘川 文哉
アソシエイト 中矢 仁武
森・濱田松本法律事務所 Client Alert 2026年7月号(第151号)より転載
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