核兵器は「張子の虎」の状態が、兵器として最も経済的効用が高い。つまり「どの国の軍隊も核兵器を使用しない」という暗黙の了解があるからこそ、核抑止力が働くのだ。ロシアがたとえ1発でも使用した時点で核抑止力は「神話」となり、核兵器は「使える兵器」になる。
米国やEUが警告するように、ロシアがウクライナで核兵器を使用すればNATOの軍事介入を招くことになりかねない。その時にはNATO軍も「核カード」を切れる状態になっている。
さらには戦術核を使用すれば、ロシアが配備する戦略核の標的ではない中国も対ロシア外交で核兵器を意識せざるを得ない。つまりロシアにとっては中国に対しても軍事費を含む外交コストが増えることになる。約4200kmの国境線を持つ中国との軍事的緊張が再発すれば、ロシアの国防負担は国家財政を逼迫することになりかねない。
核兵器の使用で経済的な負担が増えるのはロシアだけではない。国際NGOの核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)によると、核保有国による2021年の核兵器関連費用は総額824億ドル(約12兆6000億円)と、前年比で9%増加した。核兵器が「使える兵器」になることで、関連費用は大幅に増額するだろう。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策で、各国政府とも大きな財政負担を強いられた。核コストの増加は核保有国にとって大きな負担になる。そうした状況になれば、株価も暴落するだろう。米S&P500はウクライナ侵攻当日の2022年2月24日の4288.70から、紛争が泥沼化した10月18日には3719.98まで下落した。
戦後初の核兵器使用となれば、紛争がウクライナから拡大しなかったとしても、米国やEU、中国などの核保有国に与える影響はこれまでとは比べ物にならない。ロシアの核兵器使用は、コロナ禍から立ち直りかけている世界経済に冷水を浴びせかけることになりそうだ。
文:糸永正行編集委員
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