一神教と疫病とコーポレートファイナンスⅧ|間違いだらけのコーポレートガバナンス(19)

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王室が行った徴税債権の入札

ある年の宮廷の理論的税収が、満額で1兆円だったとしよう。当時の税の捕捉率はどのくらいだっただろうか。国家の徴税能力が高度に整備された今日でも、トーゴーサン(給与所得者約10割、自営業者約5割、農林水産業者約3割程度の捕捉率との推定)などといわれる。中世欧州の税の補足率は、恐らくこれよりさらに低いだろう。

仮に捕捉率が2割だったとしたら、満額税収1兆円に対して2000億円しか徴税できないことになる。住民基本台帳などもない時代に、そもそも理論的税収を推定することすら難しかったかも知れない。王室はできるだけ徴税額を増やしたいが、徴税のための官僚機構の整備など余計な支出も抑えたい。

このような状況で行われたのが、王室による徴税権の競争入札だ。できるだけ高い価格で徴税権を落札した者が王室から徴税権を買い取り、債権回収に成功すればその差額を収益として得ることができる。

1兆円の徴税権を例えば2,000億円で落札し、2,300億円回収できれば300億円の収益だ。現代の金融用語でいえば不良債権サービサーだ。税の捕捉率が低かっただろう中世においては、徴税権はもともと不良債権のようなものだともいえる。

ユダヤの商人は債権を証券化し、リスクを分散した

この困難な仕事をユダヤ教徒たちは持てる知恵と能力、そして財力を駆使してやり遂げる。この事業のリスクを分散するためにユダヤ教徒たちは、また新たなスキームを生み出した。組合を設立して複数の者が資金を供出して徴税債権の入札に対応したのだ。

これは、現代でいえばSPC(特別目的会社)を活用した債権の流動化スキームに近いといってよいだろう。高い仕入れ値で徴税権を買わされ、異教徒で圧倒的なマジョリティー(多数派)のキリスト教徒から税を徴収するというハイリスクを、新たな工夫で分散して負担し合ったのだ。これは王室にとって、一見実にうまい仕組みだ。メリットを列挙してみよう。

徴税権を売却(流動化)することで、官僚組織の維持コストなどを負うことなく一括で税収を得ることができる。
 入札により、高値で徴税権を買い取らせてより多く税収を確保できる。
 ユダヤ教徒の財力を削ぎ、領土内で異教徒が発展することの脅威を減らすことができる。
 臣民に疎まれるこの徴税という仕事を異教徒のユダヤ教徒にやらせれば、臣民の王室に対する怒りと不満の矛先を彼らに向けさせることもできる。
 ユダヤ教徒のホールセール金融ビジネスの顧客(借り手)になるのではなく、彼らに徴税権を買わせることで、融資の借り手として弱みを握られることもない。

ユダヤ徴税人は組合を組織してリスクを分散化した(Photo by DMCA

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2021/01/30

ユダヤ教徒は貿易業などの本業を営みつつ、多角化の一環として金融業を早くから営んでいた。ユダヤ教徒の金融業の発展過程とその背景について書いてみたい。キーワードは「宮廷ユダヤ人」だ。そして舞台はイベリア半島(現在のスペインとポルトガル)である。