日経ビジネス「売られた社員20の運命」|おすすめの1冊
2019年5月10日発売の日経ビジネスは、「売られた社員20の運命」と、ヒラ社員の声を取り上げている。
数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識や教養として役立つ本も紹介する。
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「不発弾」相場英雄 (新潮社)
1人の証券マンが日本の金融業界を揺るがすフィクサーになる物語だ。実際に金融不祥事を起こした金融機関や企業、経済人をモデルとし、スリリングな展開で飽きさせない。典型的なピカレスク経済小説で、主人公の古賀良樹はバブル期に証券会社の「飛ばし」で頭角を現し、株式投資の評価損をデリバティブの仕組債でつけかえさせ、さらには海外企業とのM&Aで評価損をごまかすと言った具合に、損失処理の先送りを支援するコンサルタントとして活躍する。
巨大企業による金融不祥事の暗部にメスを入れようとする警視庁捜査二課のキャリア管理官・小堀秀明が古賀を追い詰めようとするが…。過去と現在が行きつ戻りつしながら物語は展開する。それにより過去の金融不祥事が、現在にどのような影を落としているかが明らかになっていく。
フィクサーである古賀は強欲ではない。初めは彼が近づき、やがては彼に近づいて来る企業の財務責任者や経営者が強欲なのだ。あるいは強欲でなくても、自己保身に汲々としている。そうした人間たちが、財テクによる巨大損失や粉飾決算を拡大していく。
ついに古賀は膨れ上がる一方の巨大企業の損失が「不発弾」のように肥大し、一旦弾ければ「日本という国全体の仕組みをあやうくする」ことに戦慄をおぼえるようになる。古賀は顧客である巨大企業に損失を明らかにして適切に処分するようにアドバイスするが、彼らの答えは「隠蔽」と「先送り」。古賀は金融の世界から離れることを考えるようになる。
重要な登場人物で、古賀の重要な顧客である三田電機の東田のモデルとなった人物と面識はあるが、キャラクターは本人を彷彿とさせるものだった。作家の取材能力の高さを感じる。ただ、ラストはドラマチックに終わりたからだったからだろうか、テレビの刑事モノに近い印象だった。
警視庁捜査二課のキャリアが、被疑者の周辺情報集めで超大物の存在に全く気づかないということがありうるのか。警察権力の情報収集力はテレビドラマで描かれているようりも、はるかに緻密で強力なのだ。
文:M&A online編集部
2019年5月10日発売の日経ビジネスは、「売られた社員20の運命」と、ヒラ社員の声を取り上げている。