数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識や教養として役立つ本も紹介する。

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日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年 (文春新書) 井上久男(著)

カルロス・ゴーン元会長の就任前の20世紀末から日産自動車<7201>の取材に当たってきた著者の「日産史」。ゴーン前会長との個別インタビューなど、一次資料も多く、ゴーン前会長と日産の栄光と確執が裏話を交えて詳細に伝えられている1冊。日産に興味を持つビジネスマンには必読の書だろう。

とりわけ、ゴーン前会長が日本人トップに「汚れ役」を任せて日産社内での人気を徹底的に落としていくことで自分のカリスマを維持してきたエピソードは圧巻で、フランスはじめ欧州列国の植民地支配の文化が今も健在であることに驚かされる。

さらには「汚れ役」を買って出ることで日産社長に昇りつめた西川廣人社長兼CEO(最高経営責任者)が、このまま残留して社内をまとめきれるのか不安になる。事実、機関投資家に議決権行使を助言する米大手のISSとグラスルイスが、西川社長の取締役再任議案に「反対」を推奨した。

非常に読み応えがある一冊だが、不満がないわけではない。第一に、視点が「日産寄り」であることだ。西川社長を含む歴代日本人幹部を厳しく批判はしているが、全体の構図としては「侵略者ルノー」と「独立の大義に燃える日産」の戦いの歴史だ。「ルノー悪玉論」では、現在の日産・ルノー間の確執と、何が争点なのかを正しく理解できないだろう。

多額の配当を受け取り、技術的にも日産に依存するルノーが経営統合を強く求めていることを「虫がいい」と切り捨てるのなら、そのルノーとのアライアンスを強化すべきといいながら自社の主導権ばかりを主張する日産も同様に「虫がいい」のである。

第二に、読者が最も知りたいであろう今後の日産とルノーの関係についての予想があいまいなこと。「ルノーの出資比率を40%未満に下げ、日産が持つルノーの15%の株式の議決権を復活させる」や「ルノーの出資比率を下げるために、日産が増資をおこない、相対的な比率を下げ、日産もルノーの株式を買いましていく」など、「理論上の可能性」を挙げているにすぎない。しかも著者が「フランス側も簡単には受け入れられないだろう」と認めているように、完全に画餅である。

著者は元朝日新聞の経済記者だけに、確証が持てないあやふやな記事は書かないというポリシーなのかもしれない。それはそれで非難される筋合いではないし、ジャーナリストとして正しい姿勢ともいえる。ただ、一冊の書籍としてみた時に、読者が最も知りたいのは今後の両社の関係だろう。その限界を知った上で、「過去のおさらい」をするのには最良の一冊だ。(2019年2月発売)

日産 vs. ゴーン

文:M&A online編集部