数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
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「データ分析で読み解く日本のコーポレート・ガバナンス史」川本真哉著、中央経済社刊
本書は、データ分析の結果から日本企業の発展についてアプローチした「数量経営史」のテキストである。日本におけるコーポレート・ガバナンスの歴史とEBPMを掛け合わせるという新しい試みのもとに上梓された。
EBPMとは「Evidence Based Policy Making(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)」、すなわち「合理的根拠に基づく政策立案」のことである。政策目的を明確化したうえで、勘や過去の個人的な経験に頼るのではなく、エビデンスに基づいて政策を立案しようという取り組みで、政府も2017年にEBPM推進委員会を立ち上げ、行政改革の一環としてEBPMの推進に取り組んでいる。
こうした動きを受けて、筆者は専門の経営学の分野にデータ分析を活用し研究結果につなげたいと考えた。特に近年コーポレート・ガバナンスの在り方に大きな関心が寄せれらていることから、日本のコーポレート・ガバナンスの歴史について分析している。
本書ではまず、データ分析の基本ツールに触れ、第2章では戦後のガバナンス構造の特徴を、第3章では明治期以降の株式会社制度の導入過程を、第4章では三井・三菱・住友の三大財閥企業のガバナンス構造について、第5章は戦前期における内部昇進型の経営者登用について、第6章では戦前期における銀行の役割について、第7章ではM&Aの経済機能として1920年代から30年代の会社支配権市場の機能(M&Aの発生確率と買収後のパフォーマンス)を、第8章では戦間期(1918年から1939年)でのコーポレートガバナンスの変容について、第9章は本書のまとめとしてこれまでの分析結果に対する筆者の考えを述べている。
2014年にスチュワードシップ・コード(SCコード)、2015年にコーポレートガバナンス・コード(CGコード)が相次いで適用が開始され、日本企業のコーポレートガバナンスは大きく進化した。この先を議論する上で、筆者の研究は様々なヒントを与えてくれるだろう。惜しむらくは、政策の意思決定についての記述がほとんどなかったこと、またテーマごとに仮説検証を設定しているため、時系列があちこちに飛んでしまう点である。
連続した流れの中で分析を試みることで、新たな気づきがあるのではないだろうか。「政策と日本経営史」の分析は、次作に期待したい。(2022年10月10日発売)
文:M&A Online編集部