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「小説 兜町(しま)」|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

「小説 兜町(しま)」 清水一行 著、角川文庫

清水一行といえば、城山三郎と並ぶ経済小説の草分けであり、第一人者として知られる。そのデビュー作となったのが本書だ。

小説兜町(しま)

物語の舞台は戦後の証券界。東京・日本橋兜町は明治から昭和の終わりまで証券街の名を欲しいままにした。東京証券取引所を中心に、大小数多くの証券会社が集まるエリアは「しま」の別称で呼ばれていた。

千葉の外房で魚のブローカーをしていた山鹿悌司がかつての勤務先の興業証券に8年ぶりに呼び戻されたのは昭和27(1952)年夏。折からの朝鮮動乱に伴う特需で日本経済が立ち直りをきっかけをつかみ、兜町も証券取引所再開(1949年)以来、初のブームに沸いていた。

山鹿に目を付けたのは興業証券の創業社長の大戸元一。本格的な株式ブームの到来を見据え、大衆を動員できるスタープレーヤーとしての素質を見抜いていたのだ。

1956年の経済白書は「もはや戦後ではない」と宣言した。山鹿は直後の神武相場では造船株1本(日立造船)に勝負をかけ、顧客を大いに満足させ、独自の銘柄開発と度胸でその名は兜町に知れ渡った。

次の訪れたのが岩戸相場と呼ばれ、上昇期間が3年以上にわたる空前の大相場だ。山鹿ファンが結集し、その豊富な資金力にものを言わせ、「山鹿機関」の異名をとった。

本田技研、三井物産、キヤノン、日本電気、平和不動産…。これらが人気の圏外に去ると、今度は新三菱重工業、東芝、日立、松下、日産、トヨタ、八幡、富士、鋼管などの大型株を仕掛け、連戦連勝を重ねた。実在する企業名も続々登場する。

だが、最後は命運がつき、会社を追われる山鹿。さらに証券界の近代化という流れの中、時代が彼を必要としなくなってきた。本書で山鹿のモデルとされるのが日興証券営業部長の斎藤博司。兜町を飾る伝説の相場師の一人に数えられている。

本書が出版されたのは1966年。東京五輪後の証券不況で経営危機に瀕した山一証券を救済するために、戦後初の日銀特融(無担保、無制限の融資)が発動された翌年のこと。

4大証券の一角を占めた山一証券は「飛ばし」で再び危機に陥り、1997年自主廃業に追い込まれた。1999年には東証の立会場が廃止され、電子取引に移行し、「場立ち」と呼ばれた証券マンが姿を消した。

今や歴史書ともいえる本書だが、兜町の今昔を知るうえで格好の一冊だ。(2022年9月25日、改版初版発行)

文:M&A Online編集部

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