数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
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「取締役会での議論に使える会計・ファイナンス」尾中直也著、税務経理協会刊
2015年より全上場企業で適用されることになったコーポレートガバナンス・コード(CGコード)の導入により、取締役会に対する要求水準が高まっている。「取締役会での議論に使える会計・ファイナンス」の著者である公認会計士・税理士の尾中直也氏は、社外役員として取締役会に出席すると(未だに)「うちのCFOや監査法人がOKなら大丈夫だろう」という他責の空気を感じるという。
本書は役員による会計ガバナンスの底上げを図るため、「上場会社のマネジメント層に知っておいてほしい会計やファイナンスの実践的な知識をまとめることにした」そうだ。
巷に溢れる決算書の読み方とか経営分析の仕方という類ではマネジメント層が読むには物足りず、かと言って会計の専門家が参照するような専門書では難解すぎて挫折してしまい、何をどこまで理解したらいいかというさじ加減が難しい。
そこで、取締役会における会社の意思決定をするにあたって重要と著者が考える6項目について、平易な解説を心掛け、留意すべき点について述べたそうだ。
章立ては、
第1章 ROEと資本コスト
第2章 会計上の見積り
第3章 新株予約権
第4章 連結会計
第5章 組織再編
第6章 IFRS
という構成になっている。
例えば、自社に大きな買収案件が巡ってきた場合、買い手の立場で「買収価格の適正さはどうやって判断するのか」、「会計上どのようなインパクトを及ぼすのか」、「のれんの減損リスクに思いは至ったのか」…。こうした判断ができることが、”使える”会計やファイナンススキルだという。
著者は「技術畑なので会計についてはわからない」という態度は、CGコードの導入で通用しなくなってきていると説く。
本書は、会社の意思決定をする立場にあるマネジメント層と明確にターゲットを定めているが、簿記やファイナンスを聞きかじった初心者が、中級編へのステップに向けて会計処理やスキームの背景にある本質を理解する上でも役立つ内容となっている。
平易な表現と総ページ数は247とコンパクトにまとまっており、忙しいマネジメント層でも短時間で読了が可能だ。
会計処理や計算式より文字量が多いので、数字より文字で理解したい文系型の思考人間におすすめの1冊と言えそうだ。(2022年7月20日発売)
文:M&A Online編集部
企業買収は買収成立がゴールではなく、そこがスタートとなる。文化の異なる2社の経営を統合する作業がそこから始まるからだ。本作品はフィクションだが、PMIを追体験できる内容に仕上がっている。