「再興 THE KAISHA」|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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「再興 THE KAISHA 日本のビジネス・リインベンション」ウリケ・シェーデ著、渡辺典子訳、日本経済新聞出版刊

バブル崩壊から「失われた30年」を過ぎ、急激な円安も相まって、このまま日本経済は没落していくのではないかとの懸念が高まっている。しかし、本書の著者で米カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル政策・戦略大学院のウリケ・シェーデ教授は日本は依然として重要な経済大国だと述べている。

著者はドイツ人で自国や米国のほか、日本でも一橋大学経済研究所、日本銀行、経済産業省、財務省、政策投資銀行などで研究員として勤務した日本経営研究の第一人者だ。

再興 THE KAISHA

日本没落の原因とされる「経済環境の変化についていけなかった」との説にも異議を唱えている。日本は変わった、そして再興に向かっているという。本書では日本企業のビジネス再興(リインベンション)に向けた構造変化を解説している。

とりわけ、日本企業のリインベンションの手段として注目されるのがM&Aだ。その推進役となっているのがプライベートエクイティ(PE)ファンド。著者は名作「ハゲタカ」が2007年のオリジナル版ドラマではPEファンドは冷酷な海外投資家として描かれていたが、2018年の新シリーズでは日本企業を救済し、邪悪な市場の力から守っていくれるヒーローとして描かれていると指摘している。

これは実際に日本企業で起こったM&Aで、日本人のPEファンドへの印象が変わったためだという。2000年代初頭のPEファンドは「ハゲタカ」のように敵対的で、日本企業の閉鎖性や後進性を激しく非難して日本人の心を逆なでしてきた。

しかし、2010年代に入ってアベノミクスが始まると、日本にPEブームが再燃し、M&Aが急増していく。これにはPEファンドが日本企業の流儀と慣行に合わせて、言動を変えた効果が大きいという。

つまり、PEファンドは「日本企業が嫌がること」を学習し、それを回避する手法を習得したのだ。じっくり時間をかけて交渉することを心がけ、買収後の従業員の雇用と待遇を保証し、交渉責任者を日本人にするといった「気配り」で、買収対象の企業を安心させる。これにより日本でPEファンドによるM&Aが大きく伸びたという。

PRファンドも変化したが、これを受け入れたり積極的に活用したりする日本企業も現れた。日立製作所のように上場子会社を積極的に売却するなど、従来のグループ経営を改める戦略的リポジショニングと、不採算事業の切り捨てではない「選択と集中」に踏み出している。「M&A」という視点で見れば、日本企業も確実に「進化」しているのだ。(2022年8月発売)

文:M&A Online編集部

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