ある失敗例

 実はかつて、事業譲渡の実行を進めていて条件等も全て整い、合意書まで締結したのに、それを破棄して買収というスキームに変えたことがあります。

 その時の買収される方の会社(A社とします)は、ある世界的な大手メーカー(ここではグローバルの頭文字のG社とします)の孫請け企業として製造をしている会社でした。G社は当然、孫請け製造しているA社の品質や製造体制をチェックしたうえで直接の外注先の会社(B社とします)に発注をしていました。

 ここで、A社は小さいながらも非常に付加価値の高い製造をしている優良企業で、G社からの孫請け受注を失ってもビクともしない会社です。しかし一応、私はA社の社長に何度も「事業譲渡によって法人格が変わってもG社からの受注を失うことはないか確認してください」と念を押していました。

 A社の社長の回答は「製造実態が変わらないし、事業譲渡後も自分が顧問として一定期間技術指導するから大丈夫」というものでした。そもそもA社はG社からの孫請け受注を重要視していませんでしたし、事業の買い取り側の会社も同様に重視していませんでしたから、あまり真剣に確認していなかったようです。

 しかしいざ、話しが進み、合意書を締結した後になって「やはり法人格が変わるとG社からの孫請け受注はできない」ということになりました。

 先ほど述べたように、その事業譲渡は、G社からの受注額は大勢に影響があるものではなく、そのまま進めても問題はなかったのですが、実は、直接外注を受けているB社がG社からの発注に頼っている会社だったのです。

 結局、買い手側の会社もA社も、G社の件は特に意に介さずに事業譲渡をそのまま進めることができたのですが、B社から泣きつかれてしまい、当事者が渋々、事業譲渡を買収に変更したということがありました。当然、買収を前提とした再度のデューデリジェンスからやり直しですから、時間もコストも余分にかかることになりました。

 これは、直接外注を受けている会社よりも、孫請け会社の方が立場が強いという、一般的なイメージとは逆であった事例です。この事例は、事業譲渡か買収かの検討をするにあたっては、事業や会社の売り手と買い手だけではなく、取引先(B社)の事情も考慮しなければならないということを示しています。