テスラ株が24時間買える「株式トークン」とは何だ?

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Image by Robinraj Premchand from Pixabay

暗号資産交換所のバイナンスでテスラの株式トークンが取引可能に

暗号資産(仮想通貨)交換所で世界最大級のバイナンス・ホールディングスが4月12日、米電気自動車メーカーのテスラ株式を取引できるトークンの取り扱いを開始すると発表した。バイナンスが提供するテスラの株式トークンは、1単位=1株に相当する。

実際の株式に株式トークンの価値が裏付けられているので、株価と連動して株式トークンの価格も変動する。バイナンスは株式トークンの価値を担保するため、ドイツの資産管理会社であるCMエクイティが株式の管理を行う。CMエクイティがテスラの株式を実際に買い上げ、買い上げた分を上限としてトークン化。そしてバイナンスの顧客に販売するという仕組みだ。

「株式トークン」とは

株式トークンとは、ブロックチェーン上に発行されるデジタル証券(Security Token;セキュリティトークンともいう)の一種だ。「トークン」とは、代用貨幣や商品引換券といった意味がある。つまり、株式トークンには「株式の価値を代替する」性質を持つ。ビットコインなどの暗号資産のように、ブロックチェーンの仕組みを使って、企業や団体などが独自に発行できるのだ。

株式トークンは新規暗号資産公開(Initial Coin Offering;ICO)による資金調達に利用されるなど、活用の幅が広がっている。

株式トークンと株式の違い

トークン版のテスラ株と通常の株式との違いは何だろうか。まず、トークン版テスラ株も実際の株取引と同じように9:30~16:00(東部標準時)の時間で取引が可能、リアルタイムで決済できる。

株式トークンの取引最小単位は0.01トークン(0.01株)なので、高額なテスラ株でも気軽に購入できる。テスラの株価(4月26日時点)は729.40ドルなので、1株購入するのに約8万円が必要になるが、0.01トークンなら800円程度で済む。

ブルームバーグの報道によると、バイナンスでのトークン版テスラ株の初日取引量は約1000万ドル(約10億9000万円)だった。テスラの1日当たりの取引高平均ー約570億ドル(約6兆円)に比べるとはるかに少ない額だが、暗号資産のマーケットではそこそこの取引規模となる。

バイナンスの株式トークンは、米ドルにペッグ(=固定)されたバイナンスUSDで決済される。ただし、株式トークンは実際の株式に交換することはできない。また、サービス対象外の地域(米国や中国、トルコなど)では使用できない。また、実際の株式と同じように配当を受け取ることもできるが、株主総会での議決権はない。

中国で設立されたバイナンス

今回、テスラの株式トークンの取り扱いを始めたバイナンス・ホールディングスは、900種類を超える暗号資産を取り扱う世界最大級の暗号資産取引所である。中国で設立された会社だが、本国の規制が厳しくなったので他国へ移転した。ヨーロッパのマルタに本社があると言われているが、バイナンスはこれを否定。世界各国にオフィスがあると述べている。

バイナンスはテスラに続き、NASDAQに上場する大手暗号資産取引所のコインベースの株式トークンの取り扱いも開始した。一方で早くも欧州などの規制当局は、バイナンスの株式トークンに監視の目を向けている。

一方で、5月1日から米通貨監督庁(OCC)の元長官代行のブライアン・ブルックス氏がバイナンス・ドット・USのCEOに就任することが話題になっている。ブルックス氏はかつてコインベースで最高法務責任者を務めており、ブルックス氏がバイナンスのトップに就任することで、暗号資産の信用拡大を目指す。

ブルックス氏は米CNBCに出演した際、「ビットコインのボラティリティーは以前に比べてはるかに低くなっている」と述べ、暗号資産が投資対象として魅力が高まっているとの見方を示した。

FTXの株式トークンは24時間取引が可能

株式を最初にトークン化したのは、仮想通貨デリバティブ取引所のFTXだ。FTXは世界で最も成長している暗号資産取引所の一つで、香港を拠点に活動している。ただし、米国当局との衝突を避けるため、米国人の利用を認めていない。

2020年10月にテスラやネットフリックスの株式トークンを提供するサービスを開始した。他にもゲームストップ、ビオンテックなどの米国市場銘柄をトークン化して取引できるようにしている。さらに24時間取引可能なので、株式市場が開いていなくても取引できるのだ。

FTXの株式トークンは、現物株と交換できるというメリットもある。ただ、FTXの株式トークン市場はまだ小さく、2021年になってから4月までの取扱高は約13億ドル(約1400億円)にとどまる。しかし、世界中から24時間取引に参加できるので、ビットコインなどの暗号資産に続き、今後の成長が期待できる新たな仕組みとして注目されている。

また、FTXではIPO銘柄を上場前に取引できるというメリットもある。FTXは、大手株式アプリ「ロビンフッド」のIPO前に、トークン化された「Pre-IPO」の取引を開始した。上場前の株式だが、ほかのFTXの株式と同じように取引できる。

ロビンフッドのティッカーシンボルは「HOOD」で米ドル建ての取引となる。ただし、HOODの取引は推定時価総額から算出されたもので、将来上場した場合の株価に一致しない可能性もある。

ビットレックスではアップルの株式トークンも

株式トークンを取り扱うのは、FTXやバイナンスだけではない。2020年12月には、ビットレックス・グローバルがアップルやテスラ、アマゾンなどの株式をトークン化してデジタル資産取引所に上場する計画を発表している。

投資家は外部の仲介業者を経由せずに、アップルやアマゾン、グーグルなどの有名企業に追加の手数料を支払わずに直接アクセスできるようになる。

米ドルやドルに連動する暗号資産ーテザーやビットコインを利用し、米国市場にアクセスできない国に住んでいる人でも利用が可能になるという。ビットレックスは実際の株式ではなく、株式の裏付けのあるデジタル資産を上場させるのだ。

「これまでの伝統的な株式の決済システムは、複雑で非効率だった」とビットレックスのトム・アルブライトCEOは述べている。ビットレックスは、将来的に上場投資信託(ETF)などのインデックス商品のトークンの提供も始める予定だ。

日本でも株式トークンは始まるのか

米国では、1株単位での売買が基本だ。しかし、日本では100株単位となっているので、株取引を始めるにはまとまった資金が必要になる。たとえば、任天堂<7974>の株価は約61450円なので(4月26日時点)、614万円もの資金が必要になるのだ。

しかし、株式トークンのように100分の1単位で取引できれば、価格の高い値嵩(がさ)株も比較的少額で投資ができる。日本の証券会社ではミニ株や単元未満株などのサービスもあるが、取引できる時間が限られているなど制約が多く、普及しているとはいえない。

国内では今年1月、SBIホールディングスと三井住友フィナンシャルグループが共同でデジタル証券取引所の開設を目指すと発表しており、2022年春に株式トークンの取り扱いの開始を予定している。

文:M&A Online編集部

参考URL:SBIグループとSMBCグループによるデジタル証券取引システムを運営する合弁会社の設立に関する基本合意のお知らせ

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