数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
「元彼の遺言状」 新川 帆立著、宝島社刊
「カネの亡者」と目の敵にされようと、何しろ、剣持麗子は凄腕の弁護士だ。才色兼備のうえに、向こう意気は人一倍。たいていの男なら、尻込みしてしまう。年齢は28歳。「私はお金がほしい」と言ってはばからない。
「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」。こんな前代未聞の遺言状を残して森川栄治が亡くなった。犯人を特定するための選考会を開くように指示している。
弁護士の麗子は、犯人候補として名乗りをあげた栄治の友人の代理人を引き受ける。依頼人が無事、「犯人」に選ばれれば、ざっと計算して150億円というケタ外れの成功報酬が見込めるというのだ。
亡くなった栄治は森川製薬の御曹司。実は、麗子が学生時代に3カ月間だけ付き合った2歳年上の元彼でもあった。遺言状には続きがあり、栄治は元カノたちに軽井沢の別荘と土地を遺贈するという。麗子も有資格者の一人。元彼・栄治の死をきっかけに、遺言状で名指しされた当事者としてもかかわる立場にも…。
軽井沢に何人かの元カノたちが集まるところから物語は大きく動き出す。栄治の足の付け根には注射痕があったことが分かる。インフルエンザが死因とされていたが、他殺説が急浮上する。
タグ・アロング(共同売却請求権)。本書にはこんなM&A用語も登場する。特定の株主が株式を売却する際、他の株主も同条件で売却できる権利のことで、株主間契約にしばしば盛り込まれる条項の一つ。森川製薬が進めていた新薬開発のカギを握るある製薬ベンチャーの買収には栄治もかかわっていた。
遺言状には「死後、3ヶ月以内に犯人が特定できない場合、僕の遺産はすべて国庫に帰属させる」とも。果たして、これが奇妙な遺言状騒動の真相にどう結びつくのか。麗子がエンジン全開で痛快アクション劇さながらに問題に立ち向かう。
本書は第19回(2020年)「このミステリーがすごい!」大賞に輝いた話題作。著者の新川帆立さんは、主人公の剣持麗子と同世代の現役ばりばりの弁護士。出色のキャラクターの持ち主・剣持麗子の続編をぜひお願いしたくなる。(2021年1月発売)
文:M&A Online編集部