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気合の入ったジャニーズ事務所の調査報告書 注目すべき点とは

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写真は会見に臨む東山社長ら。東京で10月2日撮影。(2023年 ロイター/Issei Kato)

ビズサプリの三木です。2023年8月、株式会社ジャニーズ事務所*は、創業者であるジャニー喜多川氏によるタレントへの性加害問題に関する調査報告書を公表しました。誰もが知る芸能事務所の不祥事ということで注目を浴びていますが、調査報告書そのものも「気合」を感じる報告でした。

今回は、この報告書について調査報告として注目すべき点について紹介します。

なお、今回ジャニーズ事務所は「概要版」「公表版」の2つの報告書を公開しています。このうち公表版にはジャニー氏による性加害が克明に記載されており、読み手によっては不快感を催す可能性があります。公表版を読まれる場合は十分に注意してお読みください。

1.調査チームの構成

今回の調査チームは、弁護士の林眞琴氏(座長)、精神科医の飛鳥井望氏、臨床心理士の齋藤梓氏の3名に加え、弁護士6名が補助者として加わる構成となっています。

事実認定のみであれば弁護士中心に構成するところですが、精神科医と臨床心理士を加えている点は、事実認定のみならずその先にある被害者の救済を意図しており、珍しい構成と思います。例えば2017年11月にJPホールディングスがセクシュアルハラスメントに関する調査報告書を公表していますが、その際の調査委員会は委員・補助者共に弁護士によって構成されていました。

ジャニーズ事務所の場合、被害者が現にタレントである可能性もあって通常以上に声を上げにくいことや、精神的に追い込まれていることも想定されるため、調査チームは調査のみならず、ジャニーズ事務所が設けた「心のケア相談窓口」との連携なども行っています。

また、座長の林真琴氏は第49代検事総長です。検事総長とは検察官を束ねる検察庁のトップです。ジャニーズ事務所の調査委員会は、職務上、強い正義感が期待できる人物を委員長に充てた構成と言えます。

2.調査の内容と結果

調査の内容については、資料の査閲、被害者及びジャニーズ事務所関係者からのヒアリング、窓口設置による情報収集と、比較的オーソドックスな手法を取っています。なお、本件の加害者であるジャニー氏については他界されているためヒアリングは実施できていません。

調査の結果については直接的な性加害表現も出てきてしまうためここでは詳細は記しませんが、1960年代から暴露本の出版があり、1999年にも週刊文春による報道があるなど、古くから性加害の疑惑があったことが調査報告書にも改めて詳細に記載されています。改善のチャンスはあったのに数十年もの期間にわたり性加害を止められませんでした。このことが、原因分析のところで業界の自浄作用の無さを指摘する背景となっています。

3.原因分析の特徴

原因分析としては、まずは権力構造の問題、すなわちジャニー氏、メリー氏という強烈な才能を持つ同族による経営であったため誰も口出しをできなかった点を挙げています。このこと自体は経営者不正などの調査でも良く目にする問題です。取締役会の機能不全や内部監査部門の不存在も原因に挙げられていますが、それらも強烈な同族経営であったからこそ生じた事態と言えるでしょう。

それに加え、本調査では原因としてマスメディアの沈黙、業界の問題も挙げています。暴露本や週刊文春による報道などを踏まえれば業界として自浄すべきであったという点です。ジャニーズ事務所の調査であるにもかかわらず、個社の調査報告の枠を超えた業界やマスメディアの人権問題という視座も持っているのは本調査の一つの特徴と言えます。

4.提言の特徴

提言としては、内部監査室の設置、内部通報制度の活性化、取締役会の活性化など、不祥事においては「定番」ともいえる提言もある一方で、調査報告書公表時点でジャニーズ事務所の代表取締役であった藤島ジュリー景子氏の辞任を求めています。

また文中ではジャニーズ事務所の「解体的な出直し」が必要であるとも書かれています。2023年10月2日にジャニーズ事務所がまさに「解体的な出直し」をするという記者会見を行いましたが、おそらく調査報告書の段階でジュリー氏と調整済みで、大きな方向は固まっていたものと思われます。

通常、調査委員の役割は事実認定と提言であって、代表取締役の選解任は株主総会や取締役会の役割です。例えば経営者が主導した大規模な粉飾決算があったグレイステクノロジー社では、2022年1月に公表した調査報告書において、「既に退任した者も対象として、その法的責任の有無や責任の内容を明確にした上で、必要な措置を厳格に講じるべき」と記載しており、具体的な役員人事にまでは踏み込んでいません。

それだけに、代表の辞任と会社の出直しまで直接的に求めたジャニーズ事務所の調査報告は、思い切ったところまで踏み込んでいるものと感じます。

ジャニーズ事務所の不祥事は一つの芸能事務所の不祥事というだけでなく、日本という国の人権意識にも疑問を投げかけるものです。だからこそ調査報告書でも業界やマスメディアの問題に踏み込みました。真偽は分かりませんが芸能界には枕営業などの噂も絶えません。誰もが知るジャニーズの名前が消えていくのは寂しい気もしますが、この機に業界自体が浄化することを願ってやみません。

編集部注* 株式会社ジャニーズ事務所は2023年10月17日に株式会社SMILE-UP.に社名を変更した

株式会社ビズサプリ AW-Biz通信(vol.180 2023.10.11)より転載

ジャニーズ事務所 調査報告書(概要版)
ジャニーズ事務所 調査報告書(公表版)

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