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【これからM&Aをする人に】とっておき情報 社労士・中小企業診断士の資格を持つ税理士が見てきたものとは(上)
M&Aは極秘で進められるため、経営者によるスピーディーな意思決定と行動が重要だ。またM&A後に現場をまとめるのは覚悟がいる。経営者が覚悟を示せば、職場が変わる。職場が変わると社員の意識も変わる。
これはM&Aではないですが、ある会社で、実際にあった事例です。ある三代目社長が次世代の後継者に会社を引き継ぐにあたり、先代や先々代の創業家社長が相続対策のために多数の親族その他に分散してしまった株式を整理しようとしていました。そのような株主構成の整理は若い次世代の後継者が実行することは困難であり、多くのオーナー社長にとって「最後の仕事」となります。
分散してしまった株主の中には、敵対的になってしまったA株主と、三代目社長と長年苦楽を共にしてきて一足先に退任した元役員のB株主も含まれていました。B株主には創業家との血縁関係は無いですが、創業家一族以上に会社のことを思い、長年に渡って身を削り会社を成長させてきた人でした。
その三代目社長は、敵対的となってしまったA株主と長期にわたり粘り強い交渉をし、許容できる最高値の金額をもってA株主から会社が自己株として買取るという合意に至りました。そしてやっと、その自己株買取りのための臨時株主総会の招集通知を発送したところ、驚いたことに、苦楽を共にした元役員のB株主から売主追加請求の書面が届いたのです。
この場合、会社はA株主との関係上、もう引き下がれませんからA株主からもB株主からも同じ単価で株式を買い取らなければなりません。
ややこしい実務の詳述は省略しますが、いずれにしても、A株主から予定通りの株数を買取るためには、さらに追加で臨時株主総会を開催しなければなりませんし、B株主から自己株として買取るための予定外の資金も必要になります。当然、議決権比率も当初の思惑とは変わってきます。
この事例などは、全ての株主に対し、いつどのような形で株式の移動を強要されるか分からないということを示しており、それは会社の株主構成や資金繰りにまで影響を及ぼすということを示しています。
高橋秀彰綜合会計士事務所 代表。1965年生まれ、愛知県出身。公認会計士、税理士、宅地建物取引士。燦ホールディングス株式会社(東証一部上場)社外監査役。
人呼んで「会計業界のブラックジャック」(ただしライセンスは有り)。他の会計事務所では手に負えない難度の高い案件を得意としており、数多くの相続対策、企業の予算管理、事業承継(M&Aを含む)、不動産取引スキーム立案実行等によるクライアント救済の実績を持つ。その他、一般企業を対象とし、独自に開発した財務分析ツールを用いて行う決算検討会も好評を博している。
また、京都花街のお茶屋では稀有な顧客として知られ、京都花街の不文律や裏事情にまで精通している。2017年に『「一見さんお断り」の勝ち残り経営』( http://amzn.to/2qW9r9e)~京都花街お茶屋を350年繁栄させてきた手法に学ぶ~ぱる出版/1500円+税を出版。
高橋秀彰綜合会計士事務所(http://takahashijimusyo.net/index2.html)
M&Aは極秘で進められるため、経営者によるスピーディーな意思決定と行動が重要だ。またM&A後に現場をまとめるのは覚悟がいる。経営者が覚悟を示せば、職場が変わる。職場が変わると社員の意識も変わる。