まさかの事例

 これはM&Aではないですが、ある会社で、実際にあった事例です。ある三代目社長が次世代の後継者に会社を引き継ぐにあたり、先代や先々代の創業家社長が相続対策のために多数の親族その他に分散してしまった株式を整理しようとしていました。そのような株主構成の整理は若い次世代の後継者が実行することは困難であり、多くのオーナー社長にとって「最後の仕事」となります。

 分散してしまった株主の中には、敵対的になってしまったA株主と、三代目社長と長年苦楽を共にしてきて一足先に退任した元役員のB株主も含まれていました。B株主には創業家との血縁関係は無いですが、創業家一族以上に会社のことを思い、長年に渡って身を削り会社を成長させてきた人でした。

 その三代目社長は、敵対的となってしまったA株主と長期にわたり粘り強い交渉をし、許容できる最高値の金額をもってA株主から会社が自己株として買取るという合意に至りました。そしてやっと、その自己株買取りのための臨時株主総会の招集通知を発送したところ、驚いたことに、苦楽を共にした元役員のB株主から売主追加請求の書面が届いたのです。

 この場合、会社はA株主との関係上、もう引き下がれませんからA株主からもB株主からも同じ単価で株式を買い取らなければなりません。

 ややこしい実務の詳述は省略しますが、いずれにしても、A株主から予定通りの株数を買取るためには、さらに追加で臨時株主総会を開催しなければなりませんし、B株主から自己株として買取るための予定外の資金も必要になります。当然、議決権比率も当初の思惑とは変わってきます。

 この事例などは、全ての株主に対し、いつどのような形で株式の移動を強要されるか分からないということを示しており、それは会社の株主構成や資金繰りにまで影響を及ぼすということを示しています。