商工中金の民営化、レッドオーシャンのM&A分野に活路を見いだせるか?

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東京・上野御徒町

評価委員会が事業承継・M&A支援の拡充を提言

政府系金融機関の商工組合中央金庫(商工中金)の経営改革を検証・検討する中小企業庁の「商工中金の経営及び危機対応業務に関する評価委員会」は、8月3日に公表した報告書で事業承継・M&A支援の拡充を提言した。国内のM&A仲介ビジネスはレッドオーシャンの様相を呈する中、どれほどの独自性と強みを打ち出せるかが注目される。

大規模不正が発覚した危機対応融資からの転換を目指す

商工中金は2017年、公的資金を原資とした低利の危機対応融資などをめぐる大規模な不正行為の発覚を受け、「ビジネスモデル等に係る業務の改善計画」と実行計画の中期経営計画(2018~2021年度)を策定。外部の有識者による評価委員会が2018年4月から計17回にわたり、業務改善のチェックを重ねてきた。

これらの計画では、不正の発覚前まで依拠していた危機対応融資に頼らないソリューション事業への転換を目指す方針を明示。新たなビジネスモデルの大きな柱に、事業の承継・再生が必要な中小企業の課題解決を図る付加価値の高いサービスの提供などを掲げた。

全国規模の店舗ネットワークを活用

報告書では、新たなビジネスモデルを「概ね確立できた」と評価。事業承継・M&A支援については、全国102店舗(2021年9月末現在)のネットワークを活かせば他の地域金融機関との差別化を図れるとし、地域金融機関と連携することで単独では買い手を見つけにくい案件の事業承継ニーズにも応えられると期待した。

商工中金が2021年度に受け付けた事業承継の相談は前年度比1,369件増の3,172件。営業店から本部へのM&A相談件数も同1,617件増の3,667件を確保した。新型コロナウイルスの影響による経済情勢の悪化や中小企業経営者の高齢化で事業承継ニーズが高まる中、本部の専門部署と営業店の専門人材などを増強した効果が表れた格好だ。

受託好調の一方、収益化の伸び悩みに課題も

しかし、2021年度のM&Aの成約件数は36件に過ぎない。前年度から15件を上積みしただけで、目立った収益増には結び付かなかった。企業間連携を後押しするビジネスマッチング成約は前年度(607件)から倍増の1,260件に拡大したものの、M&A手数料などを含む2021年度の非金利収益率は2019年度の12.7%を下回る12.6%にとどまった。

●商工中金 事業承継の実績推移

●商工中金 M&Aの実績推移

●商工中金ほか非金利収益率の比較

中小企業庁がまとめた2022年版中小企業白書によると、M&A仲介上場3社と国の事業承継・引継ぎ支援センターのM&A件数は増加傾向にある。コロナ禍の長期化でさらなる市場の拡大が見込まれる中、商工中金も2022年度から3カ年の新たな中期経営計画で事業承継・M&Aなどのコンサルティングサービスを通した非金利収益の底上げを目指す。

群雄割拠のM&A業界

ただ、M&A業界は群雄割拠と呼ぶに相応しい状況だ。IPO(株式公開)を果たした専門会社も複数に上るが、2021年8月に中小企業庁が創設したM&A支援機関登録制度には地方銀行などの金融機関を含めて2,823件がひしめく。案件の獲得にはニーズの掘り起こしだけでなく、M&A前に売り手企業の価値を高めるサポートが必須となっている。

評価委員会は、商工中金が担保や経営者の個人保証に頼らない事業性評価に基づく融資や課題解決型提案などを疎かにしていたと指摘。2018年度からの中期経営計画の期間中も、後継者がいない組合員企業の100%の株式譲受を含む長期の事業承継支援事例は3件しかなかった。抜本改革の行方は、依然として予断を許さない段階と言えるだろう。

コロナ禍の危機対応融資で存在感

一方、報告書では完全民営化の実行の判断に向けた政府の検討が進むことへの期待も示された。商工中金は民業圧迫の批判をかわすため、遅くとも2015年度までに完全民営化されることが決まっていたが、2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災で事実上の凍結状態とされた経緯がある。

コロナ禍の下では危機対応融資を復活し、中小企業の資金繰りを支えて存在感を高めた。だが、国立国会図書館の調査及び立法考査局は2022年5月の調査研究で、「そもそも危機対応融資の制度設計は民間金融機関が指定金融機関となることを想定している」と提起した。

完全民営化の試金石となる事業承継・M&A支援

国内におけるオーバーバンキング(銀行過剰)の問題も叫ばれる中、今後は完全民営化の議論再開が焦点となる。だが、事業承継・M&A支援などに活路を見いだせないまま独り立ちする道を突き進めば、最終的に組織の解体・廃止を招くことになりかねない。

世界でも例を見ない「中小企業専門の金融機関」の命運は、事業承継・M&A支援を核とするソリューション事業の成否が左右することになりそうだ。

文:岩城 由彦

岩城 由彦 (いわき・よしひこ)

1993年4月、十勝毎日新聞社に記者として入社。本別支局長、政経部デスク、東京支社次長、政経部長などを歴任した。2019年6月から月刊誌、電子書籍、Web記事・コラムのライターとして活動。

論文:「自治体の政策形成と市民参加 米国ポートランド・メトロの市民参加制度 広域的なまちづくりに向けて」(月刊誌「都市問題」1999年2月号


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